人生の敗者復活戦に挑む4人

就職氷河期/ワーキングプア/派遣切り……<br />理不尽な割を食ったアラフォー世代の逆襲が始まる!<br />加藤晴之(かとう・はるゆき)
1955年大阪生まれ。80年講談社に入社し、98年『フライデー』編集長、06年『週刊現代』編集長。講談社を退職し、17年に加藤企画編集事務所を設立。編集担当書籍に『海賊とよばれた男』『白洲次郎 占領を背負った男』『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』『ミライの授業』『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』(以上、講談社)等がある。

加藤 さて、3人目は兵頭圭吾です。商店街が有名な板橋区の下町・大山の駅前で経済的に恵まれない家庭の子ども向けの塾を開いています。妻の雪乃は優秀な中学校教師で上戸彩に似ているという設定(笑)。兵頭はその雪乃の「ヒモ夫」なんて言われることもある、一見うだつの上がらない人物です。

永瀬 兵頭は過去に大きな挫折を経験しています。いまは一応の安定を手に入れているけれど、心の奥に葛藤を抱きながらもんもんとした日々を過ごしているわけです。

加藤 そういう人は実際もたくさんいるでしょうね。そういえば、崖っぷち4人組はみなアラフォー世代。ロスジェネ世代といっていいのか、つまり、バブル経済崩壊のあと、失政に次ぐ失政で、経済がガタガタ。「就職氷河期」「ワーキングプア」「派遣切り」とかの流行語はみんなアラフォー世代を指すコトバ。つまり、理不尽な割を食った世代です。

永瀬 若い頃に理不尽な理由で夢を断念したり、自分の才能に限界を感じたりした人は、複雑な思いを抱きがちではないでしょうか。そんな兵頭があるきっかけで有馬たちと出会い、大きな転機を迎えるのです。そして人生の敗者復活戦に挑む。そんなキャラクターとして彼を描きました。

就職氷河期/ワーキングプア/派遣切り……<br />理不尽な割を食ったアラフォー世代の逆襲が始まる!<br />

加藤 46歳の兵頭がどんな再チャレンジをするのか、ぜひ読んでいただきたいですね。さて、そして主人公4人組の最後は城隆一郎です。

永瀬 彼は『特捜投資家』における最も重要な登場人物です。凄腕の個人投資家であり内面の窺い知れない人物として造形しました。クローニズム(金持ち仲間同士、コネで政治や経営をすること)とか忖度・追従といった概念から最も遠いところに存在する、冷徹な合理主義者です。

加藤 いわば、ゴルゴ13や木枯し紋次郎みたいなキャラクターですよね。クールで孤高、他者との関わりを求めない一匹狼。

就職氷河期/ワーキングプア/派遣切り……<br />理不尽な割を食ったアラフォー世代の逆襲が始まる!<br />

永瀬 底知れない金融知識と驚異的な情報ネットワークを駆使して莫大なカネを稼ぎ続ける彼は、「カネと自由は同義」という人生哲学を持っています。そのような人物がいかにして誕生したのかも丁寧に描きました。そのあたりも読みどころだと思います。

加藤 それに、城はいろいろと複雑な部分も抱えていますしね。

永瀬 そして、4人の主人公たちは、兵頭だけでなく全員が人生の敗者復活戦に挑んでいると言えます。有馬は全国紙記者として挫折を経験しつつ、再びジャーナリズムの可能性を信じて戦っていますし、富子も男性中心のビジネス界で失敗を繰り返しながらサクセスを追い求めている。兵頭も胸に秘めた野望がある。そして巨万の富を築き無敵に見える城隆一郎でさえ、かつての敗北感を克服するために戦いを続けているんです。

加藤 皆が複雑な事情を抱えながら、人生を取り戻すために、世の不公正に対して反撃を開始するわけですね。

永瀬 そういった主人公たちの活躍が、金持ちだけがバブっているこの国の閉塞感を吹き飛ばします!

([vol.3]へつづく)