------病院の事例-----------

眼光鋭い初老の男性が病院の診察室に入ってきた。派手な服装で、見るからに柄の悪そうな風体だ。
医師は、「この人はヤクザかもしれない」と思った。

「どうされましたか?」と医師が尋ねると、「寒気がする。のども痛い。この前も来たが、全然よくならない。ちゃんと診てくれてるのか?」と訴える。

医師は、すぐに男性にシャツを脱ぐように指示して、聴診器を胸にあてようとした。
そこで医師と看護師が目にしたのは、色あざやかな入れ墨。

診察室に緊張が走る。医師は「もしかして、イチャモンをつけに来たんじゃないか?」と不安にかられ、声を震わせて言った。

「熱もないようなので、しばらく安静にしてください」

看護師も身体をこわばらせている。
それを見た男性は、野太い声を診察室に響かせた。

「オレには何もしてくれないってことかい!」

(了)

もちろん、たとえヤクザだからといって診療を拒否することはできません。

私はもともと刑事でしたのでよくわかるのですが、不規則な食事や過度の飲酒、縄張り争いや絶対的な上下関係という生活環境のもとで、健康を害しているヤクザはたくさんいるのです。

もうひとつ、医療機関の事例をご紹介しましょう。

------小さなクリニックの事例-----------

関西地区の小さなクリニック。院長先生とベテラン看護師の二人三脚で診療を行っている。

ある日、暴力団関係者と思しき患者が「風邪をひいた」と言って来院した。院長は、ひと通り診察を終えると、看護師に注射をするよう指示した。

看護師がそそくさと患者の腕をまくり上げると、唐草模様の彫り物が姿をあらわした。

すると、看護師は「ごっつう立派な刺青!すごく痛かったでしょ!」と声を上げ、「強いんやねぇ」とジョークを飛ばした。

患者は看護師のほうに目をやって、「大したことあらへん」とひと言。ニヤリとして、素直に腕を差し出した。

(了)


この看護師は、経験豊富なベテランでした。このようにジョークを飛ばす必要はまったくありませんが、むやみに相手を怖がると、かえってリスクを招き寄せることは、ぜひ覚えておいてください。

要求をクレーム化させない
「ひと言の気遣い」

クレームの初期対応では、相手に対して親身な姿勢を崩さないのが大原則です。そのためには、「目配り」が必要不可欠です。

ふつうのお客様をモンスター化させないために、必要な目配りとは何か、もう1つの事例とともに、具体的な「言葉がけ」を紹介しましょう。