100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に発売前から需要が殺到している。
本記事では、最新のクレーム事情のなかから、マスコミ報道やネット上の情報を元にクレームをつけてきたケースを特別公開する。(構成:今野良介)

クレーマーの主役は「一般市民」へ

近年は、クレームの実態を見極めることが非常に難しくなっています。なぜなら、クレーマーの属性と目的が千差万別であり、手口も多様化しているからです。

かつて悪質クレームと言えば、その多くは元暴力団やチンピラなどが金品をかすめ取ろうというものでした。クレーマーの属性と目的がはっきりしていたのです。

ところが今は、こうした「プロクレーマー」は、影が薄くなっています。1992年に暴力団対策法が施行されて以降、反社会的勢力は、クレームに名を借りた金品の要求や利益誘導ができなくなったからです。ひと目でヤクザとわかるスモーク張りの高級セダンが街中から姿を消したのも、この頃からです。

その一方で今、一般市民がモンスター化しています。正論を振りかざし、次第に「説教」へとエスカレートして長時間対応を余儀なくされる高齢者、いわゆる「シルバーモンスター」はその典型です。もともとは「善良な市民」だった人たちが、詐欺師まがいの行動をとったり、常識では考えられない理不尽な要求を突きつけてくるようになったのです。

こうした、いわゆる「大衆モンスター」は強面のヤクザと異なり、一見しただけでクレーマーだと見極めることができないため、対応する方が神経をすり減らしてしまうのです。

悪質クレームに特徴的な「8つの目的」

では、大衆モンスターの目的は、どこにあるのでしょうか?

代表的な要求内容は、次の8つです。

(1)欠陥があった商品・サービスの代金よりも高額な賠償を要求する
(2)自分の過失を隠したり、自ら細工をしたりして、不正な返品・返金を求める
(3)精神的なダメージを受けたとして、慰謝料・迷惑料を要求する
(4)従業員の接客・接遇態度に文句をつけて、その従業員の解雇を求める
(5)自分だけの特別待遇を求める
(6)実現不可能な業務改善や是正措置を求める
(7)過失についての謝罪文・詫び状、社告を強要する
(8)謝罪として土下座を要求する

このほかにも、クレームを申し立てるなかで要求していることと、本当に求めていることが乖離しているケースもあります。例えば、次のような理由でクレームをつける人がいます。

・「企業を相手に一戦を交えている」ことに満足感を覚えるから
・担当者を困らせることに快感を覚えるから
・担当者におしゃべり相手になってもらいたかったから

つまり、クレームをつけること自体が目的化しているのです。

このように、大衆モンスターの対応で厄介なのは、担当者が「相手が何を求めているか」を見極めるのが難しいことです。そして、今のクレーム現場で「主役」を張るのは、この大衆モンスターなのです。

そこで、『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、「正当な要求」と「悪質クレーム」を見極める方法をご紹介していますが、本記事では、その前に、大衆モンスターが生まれる“背景”をお伝えしておきましょう。

ストレスをクレームで晴らす人たち

大衆モンスターが猛威をふるう背景には、さまざまな社会事情があります。

まず、社会に広がる格差意識は、クレームの大きな温床になっています。自分が社会的な「負け組・下流」に属すると考えている人のなかには、他人への嫉妬心を抱え、不満を溜め込んで、日頃の鬱憤をクレームで晴らそうとするケースもあります。仕事や日常生活のなかで受けるストレスをクレームで発散しようとするケースも、近年多発しています。

さらに、強すぎる思い入れがクレームにつながることもあります。

たとえば、「モンスターペアレント」は、わが子の教育に対する強烈な思い入れのあらわれと解釈することもできます。また、自分や家族の健康への不安が募るあまり、暴力行為に及んだ「モンスターペイシェント(患者)」もいます。

強い思い入れの対象は「人」とは限りません。たとえば、店舗などで「亡き夫との思い出の品」や「母から譲ってもらった愛用のバッグ」など、かけがえのない一品が破損したり紛失したりしたと言って、店側に市場価格以上の補償を求めることがあります。

また、過重なストレスを受けているという意味では、クレームを受ける担当者も例外ではありません。

私は、講演やセミナーが終わった後の懇親会を楽しみにしていますが、その酒宴が「荒れる」ことがあります。「ビールの置き方が悪い!」「もっと早く料理を持ってきてよ!」などと、お客様相談室のメンバーがクレーマー予備軍のような振る舞いをするのです。昼間にクレームを受け、夜間にクレームをつけるという「負の連鎖」が起きているわけです。

そして、大衆モンスターがはびこる要因として、もうひとつ忘れてはならないのが、インターネットです。ネットの普及によって、個人は「情報発信のツール」という強力な武器を手に入れ、たったひとりで組織に圧力をかけることができるようになったからです。大衆モンスターは、ネット情報で入念に下調べしてから、クレームをつけることもできます。対応する側は先手を取られ、窮地に追い込まれます。

ある企業の総務担当者はこう嘆きます。

「当社のホームページを細かくチェックし、重箱の隅をつつくような質問をしてくる。嫌がらせとしか思えない」

企業や団体は、社会的責任として利害関係者に対する説明責任があり、その一環としてホームページなどでさまざまな情報を公開しています。一方、個人情報へのアクセスは、個人情報保護の見地から厳しく制限されています。

個人と企業には、そうした「情報格差」が存在するのです。ほかの一般消費者と一緒に「包囲網」を敷き、「消費者全体への裏切り行為だ!」などと、攻め込んでくるケースもあります。

SNSが浸透したいま、この傾向はいっそう強まっています。クレーム情報がSNSで拡散するかもしれないという恐怖や不安は、経営者やクレーム担当者にとって非常に大きなプレッシャーになっているのです。

クレーム関連のニュースが
クレーマーを増やす

ネットの情報拡散力によって、一部のクレーマーの手口が広く知られるようになると、「言わないと損する」「クレームをつければ得するかもしれない」と、企業や官公庁にクレームを持ち込む人が増えます。

次ページの例をご覧ください。

伊勢エビに、虫?

これは、情報に敏感な大衆モンスターが、マスコミ報道やネット上に氾濫する情報を元にクレームをつけてきたケースです。