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『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』
門田隆将著(新潮社/2008年)(文庫版の出版は2010年)

 1999年に起きた光市母子殺害事件。ある日突然、最愛の妻と生後11ヵ月の娘を失った夫は、絶望の奈落へと落とされる。犯人は少年法に守られた18歳で、一審・二審とも判決は無期懲役。夫は司法の壁への挑戦を決意する。

 世の中には底抜けの悪が存在する一方で、立派な善意の人も確かにいる。犯罪被害者の権利を守る孤高の闘いは、やがて数多くの支援者を獲得する。2012年、最高裁判所での差し戻しを経て、死刑判決を勝ち取った。

 人間の本性は、逆境でのみ顕れる。これ以上ない境遇から立ち上がった本村洋は、司法を動かしたのみならず、人間的にも大きな成長を遂げる。闇が深ければ光も明るい。逆説的に、人間の善意と常識の力を高らかに謳い上げる名著だ。

(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木 建)