こてこての“スーパーマン”が
チーム力で顧客を開拓する

 そもそも東は“スーパーマン”と呼ばれた天才肌の技術者だ。

 サーバー用のOSを開発していたころは、トラブル対応の“最後のとりで”だった。顧客対応の現場技術者が匙を投げたトラブルでも諦めなかった。同様に、「部下に対しても突き放さず、他人のレベルまで下りて指導する」(富士通社員)ことで人望を得てきた。

 東には意外な側面もある。実は、たこ焼き屋が夢で、ビジネスプランまで持っている“こてこて”の大阪人なのだ。さらに世話好きの大阪人らしさも備える。元部下の男性社員は10年前に風邪で会社を休んだ際、東から電話で「食料を買っていくぞ」と言われ、そのウエットな一面に驚いたという。

 現在、東が指揮するAIサービス事業本部は社の未来を左右するデジタルアニーラやAIなどを統括する。精鋭の技術者ら240人から成る同本部は競争が激しく、さぞ潤いのない職場かと思いきや、そうでもないらしい。

 その要因として、東が気遣い屋だからということもあるようだ。毎朝、オフィスの自席に行く道順を変え、できるだけ多くの社員にあいさつしたり、飲み会で全席を回って話を聞いたりする。そのためか「東のチームはベクトルが合えばとてつもない力を出す」といわれる。

 目下のところ、最重要のミッションはデジタルアニーラの活用事例を増やすことだ。

 富士通グループの工場でデジタルアニーラを使い、倉庫で部品を集める手順などを最適化したところ、作業員の移動距離を45%短縮できた。こうした事例を武器に他社に売り込みを掛ける。

 顧客となる金融機関は分散投資における最適な銘柄の組み合わせを知るために、製薬会社は創薬のヒントとなる医薬品と似た分子構造を持つ物質を探すために、デジタルアニーラに期待する。

 顧客と話していると、金融工学などの専門知識を求められ四苦八苦することも多いが、東は「他分野の知見がある人も加えて、事業化をやり遂げられるチームをつくる」と自信を見せる。

 事業拡大フェーズで失速すれば努力が水泡に帰す。たこ焼き屋の夢がかなうことは当分なさそうだ。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

写真提供:FUJITSU

【開発メモ】新型コンピューター「デジタルアニーラ」
 量子コンピューターによる高速計算を可能にする“量子の振る舞い”を、既存技術であるデジタル回路で実現したプロセッサー。従来のコンピューターは情報を「0」か「1」に置き換え、逐次処理するが、デジタルアニーラは量子コンピューターのように、「0」でもあり「1」でもあるという状態を可能にし、並列的に情報を処理できる。