「今回の治験は、参加者の皆さんの身体に対するメリットはまったくありません。むしろ重大な副作用の危険がありますので、そのあたりを十分にご理解いただいた上で、参加するか否かを決めて、同意書にサインしてください。もし、ここで参加をやめることにしても、皆さんに対して不利益は一切及ばないことを約束いたします。治験はあくまでもボランティアであり、社会貢献です。強制ではありません」

 残念ながら治験するのはサプリメントでも、閉経後の健康増進に役立つ薬でもなんでもなく、がんの治療薬だった。

 説明書も医師の説明も、やたらと専門用語が並んでいてよく分からなかったが、どうやらジェネリック薬(先発の薬と同じ有効成分を使っており、品質、効き目、安全性が同等な薬)の有効成分が、先発の薬と同じ推移で、体内に吸収され、血液中から消えていくかを確認するらしい。

 がんに効く薬ではあるが、「毒をもって毒を制す」的な抗がん剤ではなく、ホルモンの分泌をコントロールすることで効果を発揮する薬で、閉経後の女性の健康への影響は少ないという。

 とはいえやはり「重大な副作用」が気になる。

 発熱、呼吸困難、アナフィラキシー(アレルギーによるショック症状)、肝機能障害、糖尿病の増悪、頭痛、視力・視野障害、心筋梗塞、脳梗塞、性欲減退等々、すごい数の副作用が0.1%未満、ないし0.1~5%未満の頻度で起こる可能性があると書かれた一覧表を渡された。なんと場合によっては外科治療をすることもあると書いてあった。

「ただし、その確率は非常に低いものですし、健康が損なわれた場合には、責任を持って適切な処置や治療を行います、補償も受けられます。

 この治験は、健康な方でなければお願いできません。ご協力いただくことで、大勢の患者さんが助かります。社会的な意義は非常に高い。強制ではありませんが、ぜひご協力いただきたいとは思います」

 医師は丁寧に頭を下げた。