なぜ、自説を拡散するのか。医師は「がんが治る人が増えて欲しいわけや」と語る一方、患者が試すことで、イソジン牛乳ががんを治すかどうかの情報を得たい、という意図があることも認めた。

 自らの考え以外に「根拠」がない療法を患者に勧めることへの責任の認識についても、聞いた。

「患者には必ず主治医がいて、相談すれば主治医がやめなさいと言う。それでも(イソジン牛乳を)やる人に期待している」。そして「エエことじゃないかもしれんね」とも話した。根拠のないまま患者に試す行為の是非については、「自分がしているわけではない。とにかく勧めているだけだ」と説明した。

イソジン牛乳、専門家は「単なる空想と同じ」

 こうした行為や考えについて、国立がん研究センター(東京・築地)のがん対策情報センター長として、一般向けにがんに関連する情報を発信している若尾文彦医師に聞いた。

 若尾さんにはまず、十二指腸の消化酵素によるがん予防効果に関する研究を探してもらった。研究者向け論文検索サイトで調べた限りでは、イソジン牛乳提唱医師の論文以外はなかった。従って、この独自理論が研究者によって検証されたことはなく、「根拠」は医師の論文以外にないことになる。

 その上で、医師の論文も、読んでもらった。

「仮説に仮説を重ねた非論理的な推論に過ぎません。それぞれの仮説を証明する実験データもなく、単なる空想と同じです。科学的根拠としての信頼度は最低のレベルと考えます」

 そして、そうした仮説に基づいた療法を不特定多数の患者に伝えることの倫理的な是非については、「仮説を実証するために実施するということであれば、問題だと思います」と指摘。主治医の治療との併用で「治った」という「5~6人」のケースが、治療効果に対する根拠になるかについても、若尾さんは「根拠性があるとは言えません」と否定した。

 がん専門家の視点に照らせば、全く肯定の余地がないイソジン牛乳療法。ただ、その理論は学術誌、メディカル・ハイポッセシーズに掲載され、医師自身、それで「自信が付いた」と語っている。