経営者 日本経済生き残りをかけた闘い
『経営者 日本経済生き残りをかけた闘い』
永野健二著(新潮社/1700円)

 著者は、「日本経済新聞」の証券記者を振り出しに、40年にわたって名経済ジャーナリストとして鳴らしてきた。本書は、2016年の『バブル』に次ぐ力作である。

 戦後の経営者列伝という体裁を取っているが、実は著者が理想と考える「渋沢資本主義」(日本資本主義の父である渋沢栄一にちなみ、明治維新からバブル経済崩壊までの時代を指す著者の造語)を基準にした経営者たちの成績簿だ。

 著者によると、ドイツの著名な学者であるマックス・ウェーバーが、プロテスタンティズムが資本主義の発展をもたらしたと主張したのに対して、ほぼ同時代人の渋沢は、中国の『論語』に準拠し、日本の風土に根差した資本主義を構想した。その上で、経済活動の基礎となる銀行や会社など、現在まで続く数多くの制度を精力的につくり上げたとする。

 この渋沢資本主義は、今日まで120年間続いた。英米流の株主資本主義とは異なり、まず「公益」に資することを資本主義の本題とし、株式会社のステークホルダーを株主に限らず、取引先、銀行、従業員などの利害関係者に置くことをその特徴としていた。

 しかし、公益を重視するはずの日本的資本主義は、1980年代にバブル経済を生んだ。さらには、バブルを適切に処理して自己変革することもできなかった。制度が壊れつつあるのに、未(いま)だに新しい形が確とは見えない今日の状態に対して、著者の「日本の資本主義はどうにかならなかったのか」という歯痒(がゆ)さというか、怒り、悔しさ、苛(いら)立ちが伝わってくる。

 土光敏夫や鈴木敏文のように、世間で名経営者とされてきた人物たちに対しても、市場を無視した判断の間違いや晩年のネポティズム(縁故主義)、組織変革の失敗などを指摘して、疑問符または負号を付ける。他にも経済合理性を持たず、曖昧で不透明な慣行にこだわり、革新ができない不甲斐(ふがい)ない経営者たちには容赦ない。

 一方で、マイナスの評価がなく、著者が高く評価しているのは永野重雄、豊田英二、小倉昌男、稲盛和夫である。彼らは、それぞれの時代において、私利や独占利益ではなく、公益、革新、市場の在り方などの観点から重要な意思決定を行ってきた。それらの経営判断が、時々の状況下で、渋沢資本主義に資するような歴史的成果を生み出したという評価である。

 本書には、現役時代には書けなかったと思(おぼ)しきエピソードも多く含まれる。平成の30年がもうすぐ終わり、新しい日本的資本主義の在り方を構想すべき今こそ相応(ふさわ)しい読み物と言えるだろう。

(選・評/早稲田大学ビジネススクール教授 平野雅章)