企業経営に法務の知識は不可欠だ。企業法務の第一人者中島茂弁護士と、中島氏との共著もある本連載「組織の病気」の著者・秋山進氏が、企業と法をテーマに語り合った対談の第2回では、取締役会の機能、企業価値や株主価値経営とはどういうものかがわかりやすく解説。近年増えている社外取締役の役割は何なのかという素朴な疑問や、すべてのステークホルダーのための経営はなぜダメなのか、などの鋭い指摘も飛び出した。
取締役会は本来、経営トップを
監視するのが役目だが……
秋山 前回、1997年に明らかになった総会屋への利益供与事件のお話が出ました。事件の報道で、一般の人は、大手銀行や証券が反社会的勢力にがっちり取り込まれていたことに衝撃を受けたと思います。金融機関を含めた企業の経営に対するチェック機能はどうなっているのか、と。先生もよく指摘されるように、日本ではチェック機能を務める任務を負っている取締役会は、会社の外から経営陣を見ているという認識が薄いですよね。
弁護士、中島経営法律事務所代表
東京都生まれ。東京大学法学部卒、1979年弁護士登録。83年、企業経営法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。企業経営に法務の知識を活用すべきだとして、早くから「戦略法務」を提唱。企業の危機管理や企業法務の第一人者。『社長!それは『法律』問題です』、『その『記者会見』間違ってます!』、『株主を大事にすると経営は良くなるは本当か?』(以上日本経済新聞出版社)など著書多数。 Photo:DOL
中島 1999年に一連の総会屋への利益供与事件を受けて「金融検査マニュアル」ができたときのエピソードとして、こんなものがあります。
マニュアルには、「取締役(会)は、代表取締役を監視・監督しているか」という意味の検査項目が含まれていました。銀行でいうなら、「取締役会は、頭取を監視・監督しているか」ということになります。とくに当時の銀行は頭取を頂点としたヒエラルキーがとても強固な組織でした。そこで、頭取を監督などできるはずもないから、この項目は外してくれと、銀行は金融庁に申し入れてきたというのです。
頭取という言葉は、もともと雅楽の音頭取りから来ています。音頭をとってもらっている立場の人が音頭取りを監督できるはずがない。しかしマニュアルを作ったのは法律を徹底的に勉強しているエリートですから、「教科書には取締役会は代表取締役を監視すると書いてあるじゃないか」となって、結局、文言はそのまま残ったそうです。
一般に、経営トップが取締役会から監視されるものだと認識している人は意外に少ないのではないでしょうか。ここでもう一度復習しておきますが、この図のように取締役会は会社の外にあって、経営トップを頂点とする執行部門を取り締まるものです。にもかかわらず、取締役会は社員だけを取り締まっている、と誤解されているように思えてなりません。
ただ、最近は、建前ではあっても「ガバナンス」が議論の俎上にのぼっています。よい傾向です。法で取締役会の監督機能が規定されているからというだけではなく、徐々に株主や世間を背景に、実質的な意味で、代表取締役、経営トップを監督するという流れになればいいなと思います。