「企業の経営陣は、近頃では、利害関係者間の均衡ある利益を実現すべき者とはされていない。株主の利益のみを最大化すべき者とされるにいたってしまった」(『ポスト資本主義社会』)
その結果、ドラッカーは、企業が短期的視点からマネジメントされるようになったと嘆く。こうして企業が持つ富の増殖能力は傷つけられることになった。得られたものは、一時的な株価の上昇であり、長期的な成果の低迷だった。
ドラッカーは、長期的な成果は短期的な成果の累積ではない、と断言する。株価を上げ続けることによって、長期の繁栄を得ることはできない。
かつて経営陣とは、ステークホルダー、すなわち多様な当事者間における均衡ある利益の実現を図る者とされた。それがステークホルダー説だった。ドラッカーによれば、じつはこの認識が正しいものだった。
問題は、経営があまりに下手なところにあった。そのため株価が低迷し、買収して分解して売却するという乗っ取りが頻発した。
そこで経営陣は、シェアホルダー、すなわち株主のために働けとするシェアホルダー説が登場した。しかし、ドラッカーは、会社は株主だけのためのものであるとする説が成立したことは一度もないという。
そもそも企業とは、資金の多寡ではなく、働く者の意欲と献身によって支えられている存在である。
「投機家を儲けさせることに意欲をかきたてられる技術者はいない」(『ポスト資本主義社会』)