映画が公開された1962年当時、平均余命は男性66.2歳、女性は71.2歳でした。「68歳以上の年齢はおつり」というとみ子の発言は、当時の雰囲気を表しているといえそうです。

 ただ、68歳で「おつり」と言っていた頃に国民皆年金が確立しているわけですから、平均余命が男性81.09歳、女性87.26歳まで延びた今、財政のバランスが失われることは容易に想像できます。

 そこで、政府は「マクロ経済スライド」という仕組みを導入することで、人口減少率や平均余命の延びに応じて年金給付を減らそうとしていますが、「おつり」の人生が長くなっていることと、先に触れた「約束」との兼ね合いは年金制度改革を考える際の悩ましい論点といえます。

非正規や女性の受給権をどうするのか
「官」優先からスタートした歴史

 さらに、難しい問題があります。日本の年金制度は勤め人に有利な一方、自営業者やフリーランス、非正規雇用者、そして女性には総じて不利なシステムとなっている点です。

 それは年金制度の歴史から説明できます。ここで1959年公開の日本映画『闇を横切れ』を取り上げます。

 舞台は炭鉱と水産業で栄える九州地方の玄海市という架空の街。保守党と革新党の市長選の真っただ中です。そして映画では冒頭、場末のホテルでストリッパーの絞殺死体が発見され、そこに居合わせた革新党の候補者が逮捕される場面でスタートします。

 その後、映画は真相を追求しようとする地元紙の西部新聞に勤める若手記者の石塚邦夫(川口浩)、同社編集局長の高沢渉(山村聰)、地元のボスである広瀬陽吉(滝沢修)、広瀬と組んで利権をむさぼる保守党の市長である首藤真五郎(浜村純)などが絡む設定なのですが、年金に関するシーンあります。

 事件が起きた頃、派出所の片山という警官が街を巡回しており、死体が発見されたホテルにも立ち寄っていました。途中、ホテルの階段で顔に傷のある男性に出くわし、たばこの火を付けてやりました。

 その直後、ホテルではストリッパーの変死体が発見され、革新党の市長選候補が逮捕されたのですが、この一件を石塚との雑談で思い出した片山は、怪しい男の存在を警察署の生田課長(高松英郎)に報告します。