第2章
9
国交省庁舎前についたときには10時近くになっていた。
すでに電気は来ているにもかかわらず、明かりは半分ほどが消されている。
「森嶋さんじゃないですか」
入口を入って廊下を歩き始めたとき、背後から声をかけられた。
振り向くと植田が立っている。
「まだ仕事ですか」
「ちょっと出かけてました。いま帰ったところです。植田さんこそ、こんな時間まで役所に用ですか」
この時期なので、庁舎内にはまだ半数以上の人が残っているし、泊まり込んでいる者も多い。しかし政治家はいないだろう。大臣や副大臣、政務次官がいるとも思えない。彼らは、議員会館にいる時間の方が遥かに長い。
植田は森嶋の問いには答えず、一瞬考えるようなそぶりを見せた。
「一緒に来てくれないか。きみにとっても悪い話じゃない。いや、むしろ重要なことだ」
植田の顔には今まで見せたことのない、何かを訴えるような表情が浮かんでいる。
森嶋は思わず頷いていた。
森嶋は植田のあとについて、たった今通ったばかりのセキュリティを戻っていった。
役所を出てからタクシーに乗った。
植田は運転席に身体を乗り出すようにして行き先を告げている。
「どこに行くんですか」
「まあ、行けば分かります」
植田は曖昧な返事をして前方を見つめている。
森嶋もそれ以上、聞く気になれなかった。夜の街を15分ほど走り、付いて来たことを後悔し始めたころ、タクシーは止まった。