植田が殿塚に何ごとか囁いた。

「私はかまわないよ。大野先生が問題なければ」

 殿塚が大野に視線を向けると、大野も頷いている。

「実は、私が近いうちに会わせてほしいと植田君に頼んでいました。こんなに早く実現するとは」

 殿塚と一緒に来た男が議員たちに向かって言った。彼だけが議員バッジをつけていない。

 思い出した。葉山慎二、最近テレビや新聞でよく見る大学教授だ。政治学をやっているはずだ。地方分権が専門だ。

 お互いの紹介の後、森嶋は殿塚と大野の間に座るように指示された。正面には葉山がいる。

「わざわざご足労いただき感謝しています」

 殿塚は改まった口調で森嶋に言った。

 森嶋はなんと答えていいか分からず、植田に視線を向けた。

「殿塚先生には時々会って教えを乞うています」

「驚くのはもっともですが、このことは他言無用でお願いします」

 植田の言葉に続けて、森嶋に不快そうな表情をした若い議員が言った。彼は、民友党の衆議院議員だ。

 森嶋は無意識のうちに頷いていた。当然のことだろう。

「中華料理はお口に合いますか。もっともこの時間だ。食事を済まされているのであれば、何か軽いものでも。我々は宴会のかけもちには慣れているので気になさらずに。ここは料理が美味いうえに、信頼のおける店です。従業員も実に行き届いている」

 殿塚が森嶋の気分をほぐすように言った。