あの悪名高き業界の人たちが泣く……!?

唐池 もういろんなところで話していることですが、「ななつ星」にお乗りになったお客さまはそのほとんどが泣かれるんですね。それもただ泣くのではなくて、多くの方が号泣される。

水戸岡 初めてその話を聞いたときには、とても驚きました。確かに泣きそうな設計変更の繰り返しとスケジュールのなかで完成にこぎつけたものでしたが。

唐池「ななつ星」は一般運行に関しては、完全に公平公正な抽選で当選いただき、お乗りいただくもの。お客さまによっては、ツアーデスク担当からの当選の電話で泣き、出発直前に連絡を重ねたツアーデスクとの初対面でまた泣き、車内に入って感激の涙を流されます。さらに、旅の終わりのフェアウェルパーティで号泣。

水戸岡 僕は「ななつ星」のような仕事は、その前はもちろん、今後もきっとないだろうと思っているんですよ。職人たちも私も全員が年齢といい、キャリアといい、あれ以上ないタイミングで唐池さんから「世界一をつくるぞ!」と号令をかけていただいた。それくらいの仕事だから、なおさらこの手でつくったという実感がほかの仕事にもまして自分のなかにない。だから皆さんが泣かれる、という話を耳にしても「ああ、そうなんだ」といつまでも経ってもそういう感慨しかないんですね。

唐池 水戸岡さんたちがそうおっしゃるのはとてもよくわかります。ただし、ただし、ただし!

水戸岡 はい、はい(笑)

唐池 あの濃密な、手間に手間を重ねたエネルギーが、いま初めて「ななつ星」に接する皆さんの感動に変換されているという事実だけは強調しておきます。
 出発駅の博多駅では、わずかな時間ですが、ホームに停車している時間帯が運行中は毎週あって、しばしば関係者の方々を車内に案内します。私が解説を加えようとすると、まだ何も言っていないのに泣き出す人がいるんですよ。

水戸岡 そうなんですってねー。

唐池 また、他人事みたいに。先日なんて、証券会社の役員の方を車内にお連れしたら、すぐにハンカチを取り出して……証券会社ですよ。あの血も涙もない……。まぁ、それは冗談です。なにより上場のときは証券会社の方々にはたいへんお世話になりました!

水戸岡(笑)泣くといえば、そういったお客様に実際に接しているクルーの皆さんはたいへんなエネルギーを費やされるんでしょうね。

唐池 そうですね。お客様と一緒に泣きすぎて、博多駅に帰ってきてきたら3泊4日で2キロ痩せていた、なんて話も聞いたことあります(笑)。さながら感動ダイエットですな。