企業経営に法務の知識は不可欠だ。企業法務の第一人者中島茂弁護士と、中島氏との共著もある本連載「組織の病気」の著者・秋山進氏が、企業と法をテーマに語り合った対談の最終回は「不祥事の広報対応」を取り上げる。「ペヤングソースやきそば」のまるか食品は昆虫混入事件のあとの「神対応」で売り上げを伸ばした一方で、経営破綻に追い込まれたタカタのような例もある。その違いは何なのだろうか。
「ペヤング」が信頼回復できた三大要素は、
「謝罪」「原因究明」「再発防止」
秋山 先生はご著書の『その「記者会見」間違ってます!』でも、不祥事などに際しての企業広報のあり方の大切さを説かれています。
弁護士、中島経営法律事務所代表
東京都生まれ。東京大学法学部卒、1979年弁護士登録。83年、企業経営法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。企業経営に法務の知識を活用すべきだとして、早くから「戦略法務」を提唱。企業の危機管理や企業法務の第一人者。『社長!それは『法律』問題です』、『その『記者会見』間違ってます!』、『株主を大事にすると経営は良くなるは本当か?』(以上日本経済新聞出版社)など著書多数。 Photo:DOL
中島 良い例として、2014年に起きた、まるか食品のペヤングソースやきそばに昆虫が混入した事件を挙げましょう。
秋山 最初は「弊社製造ラインではありえない」と対応して、その後、SNSなどで大炎上しました。
中島 当初はトラブル対応に慣れていなかったのでしょう。しかし、すぐに社内調査をし、社内混入の可能性を否定できないと発表しました。そして、徹底的な再発防止の対策を打ち立て、具体的な方策を公開し、信頼回復に努めた結果、再発売で売り上げが大幅に増加したのです。カメラの導入や設備の刷新から製品パッケージを密閉容器に変えるなどまで、細かい対応をすべて発表していました。
秋山 当初の対応の「わが社の製造工程では考えられない!」という言葉は、一生懸命に管理していると自負している会社としては言ってしまいがちです。もちろんそうでない可能性もあるんですが、なかなか難しいところですね。
中島 海外では、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「タイレノール」という鎮痛剤への毒物混入事件への対処が優れた危機対応の例として有名です。毒物混入で死者が出た直後、当時のトップが記者会見を開き、まずは薬を飲まないようにと消費者に警告し、製品の回収と生産中止を決断、消費者の疑問に答えるためのホットラインを開設しました。その後、生産再開時には「3層密封構造」という3重の安全包装への変更を行い、監視カメラの設置箇所や個数などの対策を事実ベースで公表しています。こうした徹底的な対策とその広報活動で、信頼を取り戻しました(※)。
事件や事故が起きてしまったとき、そのリカバリーをどうするかが大切で、「謝罪」「原因究明」「再発防止」の3点セットが肝になります。この3つのポイントできちんと話ができれば、それが満点の不祥事対策です。
※参照:『意思決定のジレンマ』(日本経済出版社)