金融ビジネスと、顧客との関係性を重視する小売業の発想は根本的に異なる。金融業の発想では、安く買って高く売ることが重要だ。そのためには、競争力のない事業などを売却し、得られたキャッシュフローを用いて他の事業を強化することが求められる。同時に、リストラが進むと企業の強み、特徴が失われる。それが続くと、企業そのものが消滅してしまう。ファンドの傘下に入った小売業やメーカーが経営に行き詰まるのはそのためだ。

 一方、小売業における顧客との関係構築には、終わりがない。それは永続的に続く。この点が決定的に違う。

 ランパート氏の経営の下、シアーズの店舗では雨漏りやエレベーターの故障が放置されていたという。これは小売企業としてありえない。同社は、顧客に買い物をする喜びを提供するスピリットを失い、顧客の気持ちがわからない企業になってしまった。2016年に入りランパート氏はIT先端技術の導入の重要性に言及し、翌年には自社の家電製品をアマゾン経由で販売し始めたが、これは遅すぎた。

 ファンド出身の経営者は、シアーズのビジネスモデル、その強みを全く理解していなかった。IT先端技術の実用化を受けて、経済の変化のスピードが加速化していることを認識する感覚=センスも鈍かった。これは、経営者として致命的だ。

 企業の存続に必要な要素は、環境の変化に適応する能力だ。正しいもの、強いものが生き残るわけではない。変化に適応できたものが生き残る。そのためには、新しい取り組み=イノベーションが欠かせない。

 例えば、シアーズの商品に愛着を持つシニア世代にアマゾンのダッシュボタンを提供することは、顧客との関係性維持につながった可能性がある。それはIT機器を操作する際に感じるストレス軽減にもなる。そうした新しい取り組みが検討されてもよかった。

 アマゾンの成長はシアーズの競争力を低下させた一因ではある。だが、それがすべてではない。シアーズのトップに、変化を感じるセンスが鈍かったことは見逃せない。それが、経営環境の変化に対応する能力を奪ってしまったのかもしれない。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)