好きだからといって、上手だとはかぎらない

本田:小説家としてデビューしたとき、「世界的に自分の本が売れる」と思っていましたか?

吉本:「神様が決めた仕事をするのだから、きっと、いいようにしてくれる」とは思っていましたね。「悪いようにはならないだろう」って。

もしも私が、イルカショーの仕事を選んでいたら、「世界イルカショー」のチャンピオンにはなれなかったと思います(笑)。

本田:たしかに(笑)。

吉本:だから、適材適所だと思うんです。好きなことだからといって、上手にやれるとはかぎりませんから。

本田:好きなことをやって「結果が出る人」と「出ない人」がいると思います。それも運命だと思いますか?

吉本:私がイルカショーの仕事に就いて、「イルカの何とかちゃんが、ここをくぐります、ピョン、ザッパ~ン」みたいなことをやっていたら、私は「とても幸せだったけれど、成功はしなかった」と思いますね。

本田ということは、ばななさんは、「個人的な幸せよりも、自分の運命とか、使命のほう選んだ」わけですね。

吉本:そう思っています。

本田:楽しさよりも、情熱よりも、使命を選んだ自分を後悔したことはありませんか?

吉本:「ものを書く」という仕事に嫌気がさして、「お店をやっちゃおうかな」「イルカショーをやってみようかな」と思ったこともありました。お店をやって、ハワイにでも住んで、朝から晩までサーフィンをやるのも幸せかな、と思ったり。イルカの世話をするのもいいかな、と思ったり。

でも、「待てよ」と。この肉体と、この性格を持った今世の私は、サーフィンをやったら、それを題材にして小説を書くだろうし、お店をやったらお店のことを書くだろうし、イルカの世話をしたら、引退後にイルカの話を書くだろうし。

そう思ったときに、「ダメだ。逃げられないんだ」って(笑)。どうやっても逃げられないのなら、逃げずに「書こう」と思ったんです。