解雇の金銭解決のルール導入に対して、「カネさえ払えば解雇できる」という批判は誤りである。第1に、裁判の代わりとなる労働審判や労働局のあっせんでは、すでに金銭解決が紛争解決手段として用いられており、それがなぜ裁判ではダメなのか。問題は解決金の水準であり、それがとくに中小企業等では低すぎることにある。

 第2に、裁判で解雇無効判決が出た場合にも、多くの場合、元の職場への復帰ではなく金銭補償による和解で解決されており、すでに多くの解雇紛争はカネで解決されている。

 それでは、なぜ、あえて欧州並みの金銭解決ルールが必要なのか。それは紛争解決の手段の差により、金銭補償額に大きな差があるためだ。厚生労働省「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の資料では、訴訟の費用がもっとも低い労働局あっせんでの補償額は、平均して35万円に過ぎないが、裁判での和解では400万円と大きな差が生じている。

 仮に欧州並みに解雇の金銭補償ルールが策定されれば、労働審判やあっせんの補償金も、それを基準にして定められることも可能となろう。「カネさえ払えば解雇が可能」と批判する論者は、裁判に訴えられない多くの労働者が十分な補償金も受け取れずに解雇されている現状をどう考えているのだろうか。

解雇の紛争解決手段ごとの金銭補償額の比較出所)厚生労働省「第12回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」 拡大画像表示

 少なくとも70歳までの雇用機会の拡大は、高齢者の所得面だけでなく、年金財政健全化のためにも必要である(参照:「安倍3選後が年金改革「最後のチャンス」、日本の対応は遅すぎる」)。しかし、そのための手段として、政府が長年求められている制度や規制の改革を怠り、その代わりに企業に対して高齢者やキャリア採用に関する規制を強化することは、過去の産業政策と同じ手法であり、日本経済の活性化をむしろ損なうものでしかない。

(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)