70歳まで雇用継続雇用年齢をただ70歳に引き上げるだけでは、必ずしも高齢者の活用にはつながりません(写真はイメージです) Photo:PIXTA

継続雇用年齢「70歳に引き上げ」は、
効率性と公平性を欠いた仕組みの延長

 政府は10月22日の未来投資会議で、「70歳までの就業機会確保」のための雇用改革案を打ち出した。働く高齢者を増やすことは人手不足や年金制度の安定化に不可欠だ。しかし、その手段として、企業が自発的に高齢者を雇用できるための規制改革ではなく、逆に雇用の義務付けという「規制強化」を用いている点に大きな問題がある。

 第1に、現行の65歳までの継続雇用年齢の70歳への引き上げへの法改正である。これに対しては企業の人件費増が指摘されているが、むしろ正規・非正規社員間や、大企業と中小企業の労働者間の格差拡大という公平性の視点がより重要である。第2に、シニア層の中途・キャリア採用の拡大は、雇用の流動性を高めるという視点では望ましい。しかし、そのための具体的な政策はなく、単に大企業に中途採用比率の情報公開や協議会等で要請する等の「口先介入」で済ませるのでは不十分である。

 本来の70歳雇用シナリオとは、なぜ企業が熟練労働者である高齢者を十分に活用できないのかについて分析し、次に、それを妨げている制度的な要因を取り除くことにある。こうした制度・規制の改革こそが、本来のアベノミクスの「第三の矢」であったはずだ。

 現行の高年齢者雇用安定法では、定年退職者の65歳までの雇用を義務付けている。しかし、高齢者の仕事能力には大きな差があり、現役以上のスキルを持つ者もいる半面、職場のお荷物となっている場合も少なくない。定年退職直前よりも2~3割減の給料は、前者には低すぎ、後者には高すぎる。何より定年後は1年契約等の非正規社員の扱いのため、有能な人材でも責任のあるポストには就けられないという無駄遣いが生じる。

 どの職場でも仕事とのミスマッチの社員を抱えると、それだけ他の社員への仕事のしわ寄せが大きくなる。とくに給与の低い若手社員にとっては、高い給与に見合った仕事をしない中高齢社員の存在が、転職の契機となりやすい。これは同じ職場の非正社員や取引先の中小企業の社員にとっても不公正な仕組みである。こうした効率性と公平性に欠ける仕組みを、さらに70歳まで5年間も引き延ばそうとすることが、今回の政府の目論見である。