アジア選手情報の収集・提供、試合視察のアレンジ、練習招聘のアレンジ、マーケティング価値の説明など、代理人のような仕事をしながら、とにかく一つでも成功事例を作ることに集中した。成功事例が一つできれば必ず他クラブも続き、大きな動きになると信じていたからだ。

 そうして2016年に一つの成功事例が生まれた。J2・水戸ホーリーホックは、予算規模も比較的大きくない地方クラブであるが、その水戸にベトナムのスター選手であるグエン・コンフォンが加入した。コンフォンは母国で「ベトナムのメッシ」と呼ばれ、人気・実力ともにベトナムNo.1の選手。彼のFacebookフォロワーは150万人を超える。

茨城県のベトナム戦略、選手加入をフックに資本誘致

 コンフォンの水戸加入の背景には、茨城県のベトナム戦略があった。茨城県はベトナム政府とパートナーシップを組み、農業従事者の受け入れ・インバウンド強化・県産品の輸出等を進めている。コンフォン加入のニュースは連日ベトナムで大きく報じられ、「水戸」「茨城」といった名前が毎日のようにベトナムで聞かれるようになった。その影響力の大きさを感じた茨城県は、コンフォン選手を「いばらきベトナム交流大使」に任命。県のPR動画にもコンフォン選手を出演させるなど力の入れようであった。

 一人の選手加入をきっかけに水戸ホーリーホックはベトナムで最も有名なJリーグクラブとなった。その事実はクラブに事業的なメリットをもたらすことにもなる。ベトナムのナショナルフラッグキャリアであるベトナム航空が水戸のユニホームスポンサーとして契約したのである。同社が単一のサッカークラブに協賛するのは初だった。更に茨城県と茨城交通社などが協力し、ハノイから茨城空港へのチャーター便を飛ばし、水戸ホーリーホック観戦ツアーも実施した。100人を超えるベトナム人ファンがコンフォンを応援するために水戸に旅行し、周辺の観光地も巡った。

 日本政府がインバウンド戦略を提唱しているが、そのメリットはどうしても大都市に集中しがちである。Jリーグの試合をフックに地方都市である水戸に新たな観光需要を掘り起こしたこの施策は、スポーツ庁・文化庁・観光庁が主催するスポーツ文化ツーリズムアワードにも選出された。

北海道コンサドーレ札幌に「タイのメッシ」が来て実現したこと

 2017年にはJ1・北海道コンサドーレ札幌にタイのメッシことチャナティップ選手が加入した。前述の通りサッカー人気の高いタイにおいて、チャナティップは間違いなく人気No.1の選手。彼の札幌移籍を契機にタイにおけるJリーグの認知度・関心度は飛躍的に上昇。関心度は2013年調査時の2倍にあたる40%まで向上した。