金相場は、1~4月は1トロイオンス当たり1300ドル台と高値圏で推移していたが、5月半ばにはその大台を下回り、8月半ばには1200ドルを下回って一気に1159ドルの安値を付けた。その後、1200ドル前後で推移したが、10月に入ってやや上昇し、足元は1220~1230ドル程度を中心に推移している。

 金は、安全資産、つまり各種リスクからの逃避先と考えられている。米中の貿易摩擦懸念が高まる局面でも、当初は買われる傾向があった。しかし、夏場以降、米中貿易摩擦の激化を材料に、金は売られるようになった。貿易摩擦による景気の悪化は、金を含めた各種資源の世界需要を下押しするとの見方が優勢となったためだ。

 また、米国では、景気の堅調さを受けて、利上げ継続観測が強まり、金利が付かない金の売り材料になった。ドル高も、ドル建てで取引される金の割高感につながるため、価格抑制要因だ。8月には、トルコ・リラの急落をきっかけに新興国通貨が幅広く売られ、新興国の購買力低下が金需要の押し下げ要因になるとの見方も強まった。

 もっとも、その後、トルコ・リラ安は一服し、米中貿易摩擦への懸念もやや緩和して、金相場は持ち直した。さらに10月11日には、米国株価が急落し、安全資産である金を買う動きが強まった。金ETF(上場投資信託)の残高は増加に転じ、投資向け需要が喚起されたことを示している。

 10月の株価下落の一因として、米国長期金利の上昇が指摘される。金相場にとっては、金利上昇は売り材料だが、株価下落は買い材料になった。「売り」と「買い」の綱引きで、結果は買いが勝った。

 金相場と実質金利(図・下、米国の10年物物価連動債利回り)の関係を見ると、2017年は金利高ならば金下落、金利安ならば金上昇という関係で連動する場面が多かった。18年は、金利高の中で金価格が下落しているとはいえ、連動する場面が減っている。

 金相場を動かす材料が、中東の地政学リスク、米欧の政治リスク、米中貿易摩擦、新興国不安など、金利以外のものであったためだ。さらに、足元では、金利上昇が株価下落の誘因となり、同時に金が買われる状況になった。

 米利上げ継続と物価安定を背景とした実質金利の上昇や、米中の貿易摩擦などこれまでの弱材料は継続するだろう。一方で、中東の地政学リスクや米欧の政治リスクなど金買いにつながる各種リスク要因はくすぶっている。

 米中貿易摩擦についても金融市場が大きく動揺するような局面では、金買い材料視されることも考えられる。再び金相場が売られる局面もありそうだが、下値は限定的だと思われる。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)