旭化成名誉フェロー 吉野 彰Photo by Shinichi Yokoyama

当事者のノーベル財団からは全くアナウンスされないが、毎年10月初旬のノーベル賞の発表が近くなると、必ず下馬評に挙がる日本人研究者がいる。旭化成の吉野彰名誉フェローは、パソコンやスマートフォン、電気自動車(EV)などの内部に組み込まれる「リチウムイオン2次電池」の発明者の1人。充電することで何回でも繰り返して使える小型・軽量の蓄電池は、今や社会のさまざまな分野で普及が進む。過去の業績により、吉野氏は国内外の化学関係の主要な賞を総なめにしてきた。「もはや残るはノーベル賞だけ」と言われる中で、近年抱いている問題意識を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――数年前から、吉野さんは「ノーベル賞に最も近い男」と言われてきました。とりわけ、世界の自動車産業で電気自動車(EV)が盛り上がってきた2016年以降は、充電が可能なリチウムイオン2次電池の可能性が注目されています。そんな中で、周囲からは「今年こそ、受賞を」との期待が高かったと思います。

 今年(18年)、ノーベル賞の受賞がかなわなかったことは非常に残念ですが、1995年以降のIT革命をはじめとした世の中への貢献は大きなものであるし、今後もEVや環境・エネルギーの分野でいっそうの変革が期待されるという意味では、リチウムイオン2次電池などの蓄電池は大きな可能性を秘めている。

 これからも、リチウムイオン2次電池によってもたらされる「未来のモビリティ社会」や「エネルギー社会」の姿について、これまで以上に積極的に提言を行ったり地道な啓蒙活動を続けたりしながら、社会と個人のメリットが両立できる“新しい世の中”の実現に貢献していきたい。