小堀秀毅(旭化成 代表取締役社長)Photo by Shinichi Yokoyama

過去40年間で、連結売上高の規模が約4倍、営業利益が約6倍となった総合化学メーカーの旭化成。かねて事業の多角化を進めてきたが、創業96年の歴史で営業赤字に転落したことは一度もない。食品包装用ラップフィルム「サランラップ」、戸建住宅「へーベルハウス」などの一般消費者向け製品も手掛ける2兆円企業は、どのような価値観を持つ集団なのか。 (聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部・池冨 仁)

――7月6日以降、米国と中国によるガチンコの貿易戦争が始まりました。連結売上高2兆0422億円(2017年度)のうち、米中における売上高が「ほぼ10%ずつ」の旭化成は、どのように見ていますか。

 中長期的な視点で言えば、世界の自由貿易に一時的な影響が出るとしても、いずれは終息に向かうのではないかと見ています。

 私は、17年1月にトランプ大統領が就任してから、保護貿易主義的な動きを強めている米国よりも、中国の動向の方が気になる。

 18年3月の全国人民代表大会(中国の国会)で、習近平政権の長期化が確実なものになりました。加えて、中国国務院が主導する「中国製造2025」、すなわち49年の中華人民共和国建国100周年までに、世界トップの製造大国になるという大方針を打ち出しているからです。

 日本も含めた民主主義国家では、世論の意見などを聞きながら議会で物事を決めていきます。しかし、中国共産党による一党独裁制を執る中国は、私たちには想像できないような桁違いのスピード感で意思決定し、世界トップの製造大国になるという目標に向けて動いている。これからの10~20年、中国の産業や企業の発展には、目覚ましいものがあるのではないか。

 一方で、トランプ大統領は、18年11月に控えている中間選挙に向けた政治的なパフォーマンスという部分が多分にあると思う。ただし、その裏側には中国がなりふり構わず、世界トップの製造大国になろうと動き始めたことに対する米国としての危機感があることも間違いない。米国は、中国で横行する海賊版などによる知的財産権の侵害に対して、制裁をより強化するでしょう。