「TAG」という呼称をひねり出したのは、日本側だった。二国間交渉を求める米国に抗しきれないと判断したものの、物品の関税交渉に絞るように見せることで、「FTA」と解釈されるのを避け、交渉範囲が輸入規制などの非関税障壁が残る農産品などに広がり、譲歩を迫られることを避けようとの思惑があった。

 首脳会談後の記者会見で安倍晋三首相は、「(TAGは)FTAとは全く違うもの」と否定した。だが米国側は、米議会に対する交渉開始の通知には、「US-japan Trade Agreement」と、「TAG」とは言わず、その後もペンス副大統領が「日本との歴史的な二国間のFTA交渉を始める」と発言するなど、日米で2通りの言い方がされている。

「総理が言うのは、これまで日本が言ってきたFTA(のやり方)とは違うという意味」と、日本側関係者は解説する。事実上は、「物品貿易」と「それ以外」の2段階に分けた形にして、日米FTA交渉の開始を飲まざるを得なかったのが実情だ。

自動車で「輸出自主規制」再び?
80年代日米摩擦に逆戻り

 米国との二国間交渉で焦点になるのは何か。

 米国は、対日貿易赤字の約8割を占める自動車と同部品について、鉄鋼と同様に「25%追加関税」を課することをちらつかせて、不均衡是正を求めている。

 先の首脳会談の合意で、交渉中に追加関税は発動しないとされたが、共同声明では自動車について「市場アクセスの交渉結果が、米国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであることと」と明記された。

 日本が追加関税を回避するには、米国の対日輸出が増えるか、米国内の投資や雇用が増えるかといった「成果」が求められる。だが、日本の自動車関税はすでに無税になっており、米国の対日輸出が目立って増える可能性は低い。一方で、日本の各メーカーは、すでに部品を含めて米国内や周辺のメキシコなどでの生産体制を確立し、対米投資をさらに増やすといっても限界がある。そもそも、民間の投資について政府が強引に口出すわけにもいかない。

 米国はこれまでに米韓FTAの見直しや、メキシコ、カナダとのNAFTAに代わる「USMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)」を締結。「弱い相手から先に、自国に有利な協定をまとめ、それをモデルにして日本や欧州に同じことを求める戦略をとっている」(日本側関係者)。

 例えばUSMCAでは、3年間で関税撤廃の条件である域内原産割合(3ヵ国の調達比率)を75%まで引き上げるのに加えて、製造工程の40%を時給16ドル以上の地域で行うようにするなど、米国内の工場が有利な条件が盛り込まれた。

 さらにサイドレターで、「25%追加関税」措置を除外する枠を規定、乗用車の場合は「年間260万台」、自動車部品の場合は、「メキシコからの輸入が1080億ドル相当分」、「カナダからの輸入は324億ドル相当分」とされた。