事実をもとにした事例で見る
生活保護を語ることの「効果」

 2012年、片山氏らのツイートに悲鳴を上げていたAさん(47歳・男性)をモデルにしたフィクションで、気づくことの力を考えてみよう。Aさんには、私の知り合いである複数の実在のモデルが存在する。

 Aさんはトラブルの絶えない家庭に育ち、必死の努力を重ねて遠く離れた地域に就職したものの、ブラック非正規雇用で心身を病んで失職し、生活保護で単身生活を始めた。それから12年目の現在、心身の状況は少しずつ回復し、7年前からは障害者作業所で働いている。近隣に、もともと関心のあった木工を中心にした作業所があり、理解者にも恵まれたからだ。2012年は、作業所に通いはじめた翌年だった。Aさんの精神疾患は急激に悪化し、作業所に行けない時期が半年ほど続いたが、周囲の温かい配慮を受けて回復した。

 Aさんは今でも、生活保護の不正受給を問題にする報道や「働けるのに働かずにパチンコへ行く生活保護の人」というSNSへの書き込みを見るたびに、調子を崩し、引きこもりがちになる。当然、作業所の工賃は安定しない。

 Aさんの住む1Kのアパートの同じ階には、他に5世帯が住んでいる。年金生活の単身高齢者のBさん(女性)とCさん(男性)、幼児を抱えたシングルマザーのDさん、「生活保護は羨ましいかも」と時々思う若いワーキングプアの男性Eさん、という構成だ。

 ある朝、目覚めたAさんは、昨晩のテレビ番組で紹介された、「どう見ても五体満足で働けるのに働いていない生活保護の男性がいる」という視聴者の声を思い起こして、どうしても布団から出られずにいた。サイアクなのは、他の出演者が「本当にそうですよ、働いていないのに医療も無料で受けられるし。年金暮らしで医療費がままならない方がたくさんいるのに」と同意したことだ。その「五体満足で働ける生活保護の男性」は、もしかするとAさん自身のことかもしれないではないか。

 司会者は曖昧な笑みを浮かべ、明確な「ノー」を言わなかった。そして手元のスマホの中では、ツイッターに「生活保護受給者は許せない」という同意ツイートがあふれた。Aさんはテレビの電源を切り、スマホをロックし、睡眠薬を飲み、なんとか眠りについたのだった。