大企業においては、そもそも新規事業の立ち上げそのものが敷居が高く、すぐに成果を出しにくいことがあります。一般に、既存の収益部門の売上げが大きいほど、新規事業部門はやりにくくなります。

 たとえば、年商1兆円程度のメーカーの場合、すでに全国各地にある営業所で、コストダウンや経費節減、卸価格の引き上げなどの工夫をすることにより、1年程度でも20億から30億円程度の売上げアップは比較的達成できてしまいます。その理由は、スケールメリットがあるからです。ところが、ゼロからの新規事業立ち上げの場合、前述の理由により、2年間かけても、その売上げを10億円まで持っていくことすら、難しいのが現状です。

 新規事業部門は、そもそも既存の収益部門の先細りを懸念して、既存の収益部門では取り組めない新しいことに挑戦しており、すでにできあがっているルーチンワークを回すよりも多大な労力が必要です。

 しかし、新規事業開発活動が、実際の収益になかなか結びつかないと、既存の収益部門と「同じ土俵」で比較され、「金食い虫」「給料泥棒」と批判され、社内で肩身が狭くなります。

新規事業立ち上げは
中長期の成長への布石

 社内での新規事業立ち上げの問題が提起しているのは、そもそも、大企業において新規事業に取り組む目的は何かということです。

 「事業規模」を大きくするのが目的なら、短期的には、既存収益部門の売上げ拡大を図るほうが早道でしょう。たとえば、不動産会社が、現状より100億円売上げをアップしようとする場合、ゼロから新規事業に取り組むより、売上げ10億円規模の商業ビルを10件立ち上げたほうが、実現は早く、確実でしょう。

 しかし、こうした短期的な打ち手は、競合他社も当然打ってくることに加え、ある程度打つと、打ち手がなくなってしまいます。しかも、いまの収益部門が3年後、5年後、10年後に収益部門であり続けるかどうかの保証は、まったくありません。

 したがって、重要なのは、短期的に既存収益部門の売上げ拡大を図りながら、中長期の成長のための布石を打つことです。この布石が、新規事業への取り組みなのです。