今すぐクビにするべき「ビジネスに向かない人間」の決定的な特徴『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第24回では、創業時の功労者を「切る」ことについて解説する。

「お前は商売には向かない人間だ…やめて秋田に帰れ」

 Tシャツの受託事業が軌道に乗り出した主人公・花岡拳たち。だが以前から手がけていた居酒屋事業で大きなトラブルが起こる。事業を任せていた幼なじみのノブこと木村ノブオが失踪したというのだ。

 急いで居酒屋に駆けつける花岡。幸いスタッフの佐伯真理子が中心となって動いたことで、店舗は滞りなく営業できていた。しかし、ノブが強行出店した2号店の業績は悪化。それを苦にして雲隠れしたというのだ。

 佐伯に謝罪し、ノブからの連絡を待つ花岡だったが、かつて出資者である塚原為ノ介に言われた「ノブを切れ」という言葉を思い出す。

「商売は理詰めの世界。突発的行動を起こす人間は商売には向かない」

 失踪したノブは、とあるビジネスホテルに泊まり、やけ酒をあおっていた。そして同郷出身で花岡の元同級生であるTシャツ工場スタッフ・ヨーコ(工藤陽子)だけを呼び出して弱音を吐き出すのだった。

 そして翌日。花岡は、ヨーコを連れ添って現れたノブに対して、その責任を求めてこう言うのだった。

「ノブ、お前を経営の現場から降ろす」

「今回のことでよくわかった。お前は商売には向かない人間だ…やめて秋田に帰れ」

創業者すら「クビ」になることも

漫画マネーの拳 3巻P139『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 スタートアップや新興企業では、「仲間」の存在こそが最大の推進力になる側面がある。しかし一方で、成長軌道に乗れば乗るほどに、その仲間との関係が経営の足かせになるタイミングが訪れる。

 創業期はとにかくがむしゃらにどんな仕事でもこなそうとする熱量が重要だが、組織が大きくなれば適切なスキルを持ったスペシャリストやマネージャーが求められるからだ。

 また今回のノブのように、トラブルや業績不振などを理由に、創業期の功労者たちを経営から降ろすことも少なくない。創業者が自らの会社を去った(去らざるを得なかった)事例などをご存じの読者もいるのではないだろうか。

 Uberの創業者であるトラヴィス・カラニック氏は、事業の急成長をけん引した一方で、ハラスメントや組織ガバナンスに関する問題が噴出した。そして、退任に追い込まれることになった。

 WeWorkの創業者・アダム・ニューマン氏もそんな1人だ。ハラスメントの横行や従業員の乱痴気騒ぎなどもメディアで話題になった同社だが、上場延期に不正会計などの問題が相次ぎ、投資家らの意向で辞任に追い込まれた。

 かつてはあのスティーブ・ジョブズでさえも、自ら創業したAppleを追われた。経営や事業成長——つまり会社を守るためには、感情を切り離した判断が求められる時があるということだ。

 ノブを経営から下ろした一方、地元・秋田での再チャレンジの場を用意した花岡。新たな仲間を迎え、Tシャツ事業は次の展開を迎える。

漫画マネーの拳 3巻P140『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 3巻P141『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク