新事業への関心の裏にある、
個々の事情への共感こそ実用化の大前提
「健康長寿社会の実現に向けたセルフ・フードプランニングプラットフォーム」は、研究開発プラットフォームのなかでも“大店”だ。
プラットフォームの基本コンセプトは、「高齢化社会の進行を踏まえ、ちょっと調子が悪いという軽度不調に焦点を当て、軽度不調を早期にセンシングして、食と暮らしの改善による早期介入で病気の発症などを減らす」というもの。
テーマが大きいだけにプラットフォームのなかには国の支援に採択されたものだけでも、「ナスの高機能化」「脳機能改善食品開発」「ホタテ貝の内臓を原料とした健康オイルの開発」など7つの取り組みがある。
代表取締役
渋谷 健 氏
2016年6月の活動開始以来、プロデューサーを務めているのが渋谷健氏だ。本業は北九州市を拠点とする事業コンサルティング会社フィールド・フローの代表取締役だ。
渋谷氏がまず力を注いでいるのが、「サロンづくり」だ。東京または地方で、プラットフォーム関係者の交流を目的に隔月で開催している。これには会員の紹介であれば、プラットフォームの会員でなくても参加でき、自由に意見を交換したり話題を提供したりできる。
サロンづくりに力を注ぐのは、「プロデューサーの仕事は、研究開発の流れをしっかりと生み出すことであり、そのためには、『参加者たちが、表現できていないものを表現できるようになる』ことが重要だ」と考えているからだ。
ニーズやシーズを探し、マッチングするとは言っても、その背景には事業化に向けての利害、人的なリソースの過不足、技術継承にからむ悩みなど、さまざまな要因が隠れている。
「事業化へのビジョンの策定は、背景に隠れているさまざまな事情を共有、理解し、さらに共感するレベルぐらいになって初めて可能になります。それを行わずにプロデューサーがきれいなシナリオを作成しても、決してうまくいきません」
サロンを通じて一人ひとりの信頼関係を強くしようとするのには、もう一つ理由がある。それは「事業化への恐怖」を克服するためだ。新しい事業テーマに挑もうとする背景には、先にも書いたように各自がさまざまな事情を抱えている。それを理解し合えたとしても、抱えている事情故に研究開発の活動自体で満足してしまい、事業化へのアクセルが踏み込まれないケースも多い。それが「事業化への恐怖」だ。
「事業化には投資判断、市場の動向など論理的な決断が求められることは多いのですが、それ以上に『やりたい!』という熱意がほうふつとしてきて、事業化する怖さを超えていく力が必要です。そうでなければ創発は起きてこない。プロデューサーには、具体的な勝算を持ってドンと背中を押す力が求められています」と渋谷氏は強調する。