参加者の独自の仕事のやり方、慣行を知り、
研究会に“翻訳”していく
「中層・大規模木造建築推進のための研究開発プラットフォーム」を率いるプロデューサーは、1級建築士の平野陽子氏で、ドット・コーポレーションの代表取締役だ。
代表取締役
平野陽子氏
「中層・大規模木造建築―――」は、その名の通り、国内材を利用して中層・大規模の木造建築を可能にするための条件を検討し、製品や設計に落とし込むことを目指している。具体的には3つのテーマに取り組んでいる。①外国産材が主である2×4住宅で国産材の利用を拡大し、その材料を利用した部材を開発し、中層・大規模木造建築につなげていく、②中層・大規模木造建築の内装に国産材を利用した際の人への影響を見極め、評価する、③現在、チップとして低次利用しかされていない北海道産カンバ(樺)材の高次利用のための手法を開発する、だ。
建築での木材利用で悩ましいのは、材料・部材・部位・空間とプレイヤーが異なり、また求める評価軸が異なることだ。例えば中層・大規模木造建築で国産材を内装材に使う際の人への影響については、材料レベルで確認できた効果であっても、空間レベルでも同様の効果が得られるかは分からない。
「複雑なパズルのなかで、どこを押せば当たりになるのかに見通しを持っていないとプロジェクトをけん引できません」と平野氏は語る。
プラットフォームの会員は現在、団体24、個人8人で、総勢では64人ほどが参加している。その中でプロデューサーチームを設け、その中からそれぞれのテーマに担当者を配する方法を取っている。つまり平野氏が取りまとめ役となる「プロデューサーチーム」を軸にし、個々の研究開発の検証と決断のスピードを上げるのだ。
「研究開発の過程で、新たな大きなテーマが浮上してきたら、そこでまた担当者を決めてもらい、担当者にはプロデューサーチームに加わってもらいます」
プロデューサーとしての平野氏の仕事は、「全体的な技術支援と“翻訳作業”」だ。どのチーム、テーマでも自分たちだけの検討では突破できない技術的な限界があり、他チームの専門家を含めて技術的な支援策を用意する。
「植林から伐採、製材、加工、デザイン、建築業者等々、木材の事業では実に多くの人々が関わり、同時にそれぞれが独自の仕事のやり方や基準を持っています。研究開発をスムーズに進めるには、それらの違いを理解して翻訳していく人材が必要で、それがまさにプロデューサーの仕事です」。
平野氏は大学卒業後、大手ゼネコンの設計部で働いていたものの、「木造をやりたい」という思いに抗しきれず、農学部に再入学して博士号を取得したほど木材に惚れた人だ。その知見からプロデューサーに白羽の矢が立ったが、もちろん自身の仕事を広げるプロジェクトであることを実感する日々でもある、という。