持続的な水産業の創造に、“化学触媒”としての役割を果たす
最近、魚の漁獲量が減り、値段も上がっているとのニュースが多い。そこで期待されているのが養殖業だが、実は取り組む漁家(経営体)の数は減っており、1経営体当たりの規模の拡大で生産量を補っている状況にある。
一方で国内の将来人口の減少は、市場の縮小に他ならない。日本の水産業を持続的なものにするためには、安全で安心で信頼が高く、低コストで収益力のある構造への変革が求められている。この問題意識を持って活動しているのが「水産増殖産業イノベーション創出プラットフォーム」だ。16年7月に活動を始めたが、現在、会員機関は個人も含めて117を数える。
水産業成長産業化推進室
社会連携コーディネーター
荒井大介氏
「水産業には直接関係のない機関でも、自分たちの技術がどのように使えるかを考えるためにプラットフォームに参加してくれています。これまであまり関わりのなかった家電メーカーさんなども入っていただいております。例えば大手IT企業では、養殖の管理や水揚げ後の市場流通を迅速にデータベース化できれば、新ビジネスになると考えているのです」と語るのは、水産研究・教育機構の社会連携コーディネーターとしてプラットフォーム運営をバックアップしている荒井大介氏だ。
プラットフォームは大組織なので運営委員会を設け、そこに統括プロデューサーとプロデューサー2人がつき、研究戦略や研究開発資金の調達などについて、その年の活動方針を決めている。今年は会員も多くなったので、会員の関心のあるテーマごとにサブプラットフォームを設け、議論しやすくしている。
その中で魚種をマグロ、ブリ、サーモンそして今、注目されている陸上養殖について議論を深める方針が了承された。この方針に沿って、プラットフォームを運営する事務局は、「お見合いの場を増やし、“化学触媒”を促すのが仕事」だ。
荒井氏によるとプラットフォームは、基本的に「来る者は拒まず」の方針。とはいえ多様な人たちが、自らの可能性を見つけ出せるような機会をつくり、お見合いの場を設けることで活動を活発化させている。例えば研究会活動では、技術提案会、ブリ類養殖振興勉強会、全国クロマグロ養殖連絡協議会、サーモン・陸上養殖研究勉強会などを設け、この他にも現地見学会などを実施している。
その上で、「こんなことはできませんか」という会員からのアイデアの実現に向けて別の会員や技術を紹介したりするのも荒井さんの仕事だ。「沖縄でのもずく養殖効率化のため、水中ドローンの技術を持つ企業を紹介したり、真珠の陸上養殖ができれば海上作業とは異なるため、女性の雇用も生み出せるとチームの検討などもやってきました。いろいろな議論をして研究資金に応募しても、うまくいかないこともあるが、会員が多いとアイデアも多いので、その実現のためにも活動していかなければならない」。
直近では、「酔っぱらい魚」をコンセプトとする「酔魚研究会」も18年12月に立ち上げた。酒粕など酒造りの副産物を餌に使って魚を育てられないかというのである。養殖業では、飼料代がコストの7割を占め、しかも海外からの輸入品がほとんど。しかし酒粕ならば国内で調達でき、廃棄物も減らせる。
「実は福井県小浜では、酒粕で育てた『よっぱらいサバ』の養殖に成功し、大好評を得ています。インパクトがあるのでブランド化もできると思うので、将来的には『酔いどれサーモン』『酔っ払いタイ』とか、地元の名酒の名を冠した魚を肴にお酒を飲むようなセットメニューなども誕生すると思います」
荒井氏は、「アイデアと技術が掛け算されたプランが増えれば増えるほど、産業としての農林水産業や食品産業は持続的で、強い競争力を備えるようになります。そうしたなかで事務局が会員の持つ知見や技術・経験が掛け算の『×』の役割を果たせるのならば嬉しい限りですね」と語る。それは『「知」の集積と活躍の場』に関わるすべてのプロデューサーたちに共通する思いでもある。