そのとき
部下はどうしたのか

 A君はまず現場を観察することに徹した。そうするしかなかったと彼は言う。

「何も分からないんだから、まずは見るしかない。ベトナムの前に派遣された組革研で、“対象”をしっかりと見ることの重要性を嫌っていうほど教えられたのも、今にして思えば大きかったかもしれませんね。これほど何かを本気で見ようとしたのは初めてのことでした」

 現場で何が起きているのか。A君はそれこそ“血眼”になって見ようとしたのだろう。製品ができてこない原因はすぐに分かった。

「簡単に言えば、図面通りに作っていなかったんです。当然、不具合が生じて、完成に至らない。現地の外注会社の製造管理が、うまくいっていなかったんです」

 原因は分かった。しかし、これをどのように正常な状態に持っていけばいいのか。これが最大の難問だった。

「最初は、日本の感覚で、こうするのが当たり前と上から目線で指示したり、教えたりしようと試みたのですがうまくいかない。現地には現地の風土があるし、流儀がある。国民性の違いもあるでしょう。そこで初めて腹を括った。現地のスタッフととことん向き合ってやろうと。指示するのではなくて、彼らと腹を割って話し合って、仲間として一緒に改善していこうと思ったんです」

 A君は、片言の英語で必死に現地スタッフと意思疎通を図った。不思議なもので、お互いに相手を分かろうと本気になったら、拙い英語でも十分に通じ合うことができた。しかし、完璧な製品はなかなか上がってこない。A君はある決断をした。

「結果が出るまで日本には帰らない。現地の仲間たちとやり切るんだ」