その覚悟を辻に伝えると、辻はこう返したという。

「お前がこれでよしと思うまで、時間が許す限りとことんやってこい」

 改めて、辻にこのときの気持ちを尋ねると、「いやあ、人ってここまで変わるのかとびっくりしたのと同時に、ほんとに嬉しかったですねえ」と振り返った。

 しかし、こうした若手起用法がいつもうまくいくとは限らない。

「A君の件と同じ時期に、入社3年目のB君を、やはり海外メーカーでの施工管理に当たらせたのですが、工事案件があまりにも複雑な問題を包含していてうまくいきませんでしたね。本人は懸命に頑張ったんですが、トラブルの難度が高すぎた。すぐにベテランを派遣して対処しました」

 経験の浅い若手にも、ほとんど何の指示もせずに困難な仕事を任せるが、そのとき重要なのが「いつでも“ケツが拭ける”ように絶えず部下の動きをウォッチしておくこと」だと辻は語る。それがなければ、単なる“放置”になってしまう。

 突き放しつつ、見守る。それが辻のやり方だ。

仕事力が5倍にアップした
部下とリーダーの役割

 結局、A君は経験値以上の力を発揮。製品は順調に仕上がっていき、納期が遅れたことで生じた費用の問題さえも、自ら現地の担当者と交渉してほぼ解決にこぎ着けたのだ。素人同然の新人とは思えぬ活躍ぶりだったが、A君の“覚醒”を目の当たりにした辻は、今改めて「任せる」ことの重要性を噛みしめているという。辻は語る。

「A君はたった1人で現地に送り出され、本当に困ったんだと思います。困れば人は動くというのは真理だなあと確信しました」