2015年には347億円という2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額を記録した日本マクドナルド。どん底の状況にあったマクドナルドを、マーケティング本部長(当時)として見事に再生させた立役者の一人が、11月21日に発売されたばかりの新刊『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』の著者、足立光(@hikaruadachi)氏だ。本連載では、P&Gからブーズアレン、ローランド・ベルガー、ヘンケル、ワールドというキャリアで学んできたことを辿る同作のエッセンスを紹介する。第6回はマーケターにとって何よりも大切なことについて。

「人を動かす」ために必要なもの

これは私がヘンケルでもワールドでもマクドナルドでも実践してきたことでしたが、組織を動かすには3つの要素が、この順番で必要です。

「感情」
「結果」
「KPI」

まずは、「この人、誰?」という状態から抜け出さなければなりません。「こいつが言うならやってやろう」と思ってもらい協力してもらえるようになるためには、「感情」を意識しないといけません。言葉を換えれば、「仲間」とか「戦友」になることです。こいつは仲間だな、と思ってもらえるかどうかです。日本マクドナルドでも、過去にもそうだったように、入社直後は激しい飲み会、楽しかったことしか記憶にない(他は何も覚えていない)ような飲み会を繰り返しました。

次に、早い段階で、小さくてもいいので、「結果」という成功体験を作ることです。そうすることで、「この人の言うことをやれば、うまくいくかもしれない」という信頼が生まれます。

日本マクドナルドで言えば、「名前募集バーガー」に始まる2016年前半の一連のキャンペーンがそうでした。早い段階で、少しずつ、小さくても成功を作っていかないと、当たり前ですが、信頼してもらえません。

そして成功に基づいて、「KPI(組織の目標値)」を設定することです。それによって、システマチックに、メンバーに同じ方向を向いてもらうことができます。人は「やりたいこと」か「やらなくてはいけないこと」しかしないので、「KPI」を設定し、毎日のように追い続けることで、「やらなくてはいけないこと」にしてしまうのです。

日本マクドナルドでは、「話題にする」ということを方向に据えたので、SNSの「プレバズ」というKPIを2016年秋に設定し、その後も修正を繰り返していきました。プレスリリースを出してから発売までの約1週間の露出だから「プレバズ」なのですが、どのくらいSNSで取り上げてもらえたか、測るのです。この数値が大きいと、発売初週から売上がドンと上がります。

日本マクドナルドが行うキャンペーンは、初週が一番売上が高くて、週を追うごとにだんだん効果が落ちていきます。映画のロードショーと同様です。なので、最初の週の売上が高ければ、落ちていくペースは変わらないので、そのキャンペーン全体の売上が大きく上がるのです。最初の週が、そのキャンペーンの成否を左右すると考えてもいいと思います。だから、発売前に盛り上げて、スタートダッシュをできるようにするのが、キャンペーン上、とても大切になるのです。

これおいしそう、もっと知りたい、なんだろう、といかに話題にしてもらうかを、数値化しないといけません。「測定できないものは、達成できない」と言う通り、数値化しないと、KPIにならず、各自のアクションに落ちないからです。当初はツイッターのインプレッション(いいね+リツイート)数などをKPIにしていて、どんどん修正を加えて精度を上げていきました。

最後にひとつ。マーケティングは、自分たちでは何もできない、とは先に書いたことですが、絶対に勘違いしてはいけないことがあると思っています。それは、マーケティングは「企画」よりも「実行」が大切、ということです。