2015年には347億円という2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額を記録した日本マクドナルド。どん底の状況にあったマクドナルドを、マーケティング本部長(当時)として見事に再生させた立役者の一人が、11月21日に発売されたばかりの新刊『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』の著者、足立光(@hikaruadachi)氏だ。本連載では、P&Gからブーズアレン、ローランド・ベルガー、ヘンケル、ワールドというキャリアで学んできたことを辿る同作のエッセンスを紹介する。第4回はマクドナルドを復活に導いたマーケティング戦略について。
ディスカウントは「麻薬」。
私は日本マクドナルドにマーケティング本部長として入社するとすぐに、どんな戦略を取るべきかについて、社内外のメンバーと、いろんな話をしていきました。入社したばかりの頃は、売上が厳しい状態だったので、マーケティング本部のメンバーは何かあれば価格訴求した商品やレギュラー品のディスカウントに頼ろうとしていました。
この意識と戦うのは、大変でした。みんな、ディスカウントはやったことがありますし、ひとまず数字は取れます。しかし、利益を毀損しますし、客数が増えるのは一時的ですから、ある種の麻薬のようなものです。
ただ、マクドナルドには、バリューという大切な言葉がありました。払う値段に対する価値と絶対的な安さです。マクドナルドが高いと思われてしまったら、マクドナルドらしくなくなってしまうので、このバリューをいつも追求しないといけない、というのは私も理解していました。
期間限定品は、そんなに単価が低いものは出せません。安いものではなくなります。そこで、バリューというマクドナルドの価値を追求していくために私が決めたのは、むしろ期間限定品は高付加価値を追求する(結果として、値段は上がるかもしれない)、ということでした。よりマクドナルドらしいガツンとしたおいしさ、クオリティーを追求していく、ということです。
そしてもうひとつがレギュラー品の極端な安売りはしないということと、絶対的に単価の低い、チョコパイやシェイク等の商品を常に前面で訴求していくことでした。ブランドを減らす、つまり消費する活動をしていた「デフレの寵児」時代の分析をした上で、ディスカウントは最小限にする、という方向をはっきりさせたのです。
では、商品戦略で行くのか、と言っても、実はマクドナルドでは、新しい商品を作るのに半年から1年はかかります。それは実行が遅いからではなく、スケールが大きいために食材の調達ができないからです。例えばアボカドを使おうとすると、1年前から予約しなければなりません。3000店舗で一斉に展開しますから、そのくらいのリードタイムでないと、リーズナブルな価格で大量の食材を確保できないのです。
私は、重要になるのは期間限定品ではなく、むしろレギュラー品だと考えていました。当時は期間限定品だけにプロモーションが行われていましたが、それはおかしいと考えました。理由は3つあります。
そもそも期間限定品は、毎月違うものを出すので、売上が安定しません。今月の売上が良くても、また違う期間限定品を発売する来月も売上が良くなる保証がまったくないという、究極の自転車操業、なわけです。
2つ目は、期間限定品は規模という意味でも全体の3割ほどしかないということです。マーケティング本部長としての私のミッションは、売上を2割上げることでした。全体の売上の3割しかない期間限定品の売上を頑張って2割上げても、全体の6%の売上増にしかなりません。まったく足りないのです。
3つ目に、収益性です。期間限定品は、日本で企画して、日本で調達しています。レギュラー品はグローバルで調達している商品がほとんどなので、当たり前ですが、グローバル調達しているレギュラー品のほうが、期間限定品よりも収益性が高いわけです。収益性の低い期間限定品は、赤字脱却のための切り札にはなりえない、わけです。