「ああでもない」「こうでもない」「そうでもない」と考えれば考えるほど、陳腐な表現になってしまうという経験をしたことのある人もいるだろう。意外にも、最初に思いついた表現が、自分の内心にもっとも近い表現だということに気づいたことのある人もいるに違いない。

 よかれと思って、いろいろな人が手直しを繰り返した挙句、つまらない文章になってしまうというのも、よくある話だ。格好のいい言葉、カタカナ表現を羅列すれば、話し手はスマートに表現しているつもりでも、聞き手はうさんくささを感じてしまうものだ。

 筆者はいくつかの企業グループで、企業グループ各社の役員が一同に参加する研修のトレーナーをしている。世界的大企業の親会社の役員もいれば、子会社の役員、中には、その会社自体は中小企業である孫会社の役員もいる。海外の大学院を出た人もいれば、学歴とは関係ない、たたき上げの社長もいる。

 相手のモチベーションファクター(意欲が高まる要素)を見極めたり、質問だけで会議や面談で合意形成したりするロールプレイングを行うと、海外の大学院を出た人が繰り出す、シャープなフレーズが相手を巻き込むパワーを持っているかというと、そうではない。華々しい学歴とは無縁なたたき上げの社長の発する、経験に裏付けされた素朴なフレーズの威力が強いという場面が実に多い。しばらくすると、修正力が極めて高い親会社のエリート役員が、たたき上げ社長のフレーズをその場で吸収して、いつの間にか自分の言葉として繰り出している。

「そだねー」がアンカリングパワーを持っているのは、柔らかく、素朴で、飾らない言葉の持つ力が、その4文字という最少の単位に込められているからだ。

 読者の皆さんも、自分の周囲をよく観察してみてほしい。ビジネスの世界でも、人を巻き込み、人の輪の中心にいる人は、そのような言葉をよく繰り出していることに気づくに違いない。