すでに同大学の女子レスリング部ではオリンピックで11個の金メダルを獲得し、成果を上げている。しかも、ただ勝つことではなく、従来の封建的なやり方を打破することが重要な目的だった。

「選手の自主性や主体性を重んじて、常に笑顔のある競技生活を大切にしてきました」

 メダルも獲得した1人の選手の実例を教えてくれた。

「彼女は、体脂肪率が8%になるくらい、厳しい練習と節制を重ねていました。私たちは、彼女の生理が正常であるよういつも気を配っていました。食事でカロリーを制限してもミネラルはしっかり取るなどの指導も重ねました。私は時々、『大丈夫? 生理は止まっていない?』と尋ねていました。そのたび彼女は『大丈夫です』と」

 体脂肪率は、月経異常を引き起こすひとつのバロメーターとして知られ、18パーセントを切ると生理不順になる女性が半数以上、10パーセントを下回ると生理が止まるといった事実は以前から知られていた。しかし、「生理が止まっても、引退すれば自然に戻る」といった誤った認識がはびこり、それが女性にとって重大な健康被害をもたらす可能性があることを多くのスポーツ指導者が軽視してきた。

選手はモノではなく心を持った人間
栄養士指導には落とし穴も

 谷岡学長は、食事について、国際大会でも活躍した陸上競技・走り高跳びの女子選手の実例も話してくれた。

「食事は、毎日の生活の中で楽しい時間であるべきです。ところが、厳しい食事制限を課せられると、食事はつらい時間になります。練習もつらい、食事もつらい、そうなると選手は1日中、つらい時間ばかりになります。

 私たちは、食事を科学的で意義のあるものにしたくて、管理栄養士の指導を早くから導入していました。この走り高跳びの選手にも、必要があれば栄養士の指導を受けるよう助言していました。ところが、ここにひとつの落とし穴がありました」

 走り高跳びは、踏み切りの瞬間にすべての成果が凝縮される競技だ。その女子選手は、試合前になるとその瞬間を想像し、緊張感に襲われ続けた。それを解消する唯一の方法が、「大好きなあめをなめること」だった。ところが、糖分を取ることは食事制限の理論に反する。その良心の呵責とも闘わねばならなかった。彼女は栄養士に、「試合前日、あめをなめていいか」と尋ねた。すると当然のように、「それはダメだ」と指導された。谷岡学長が言う落とし穴とはここだ。