選手・コーチ側と塚原会長夫妻側の争いが、泥仕合の様相を呈してきた日本体操協会のパワハラ問題。実は両者は“似たもの同士”で、その根底には日本のスポーツ界に脈々と流れる「スポ根思想」が横たわっている。(ノンフィクションライター 窪田順生)
発端となったコーチの
発言に透ける「スポ根」思想
「加害者」とされる側が、「直接会って謝りたい」と白旗を上げたのに、「被害者」がそれを拒否して、「これまでの体制を一新しろ」と言い出すなど、ここにきてゴリゴリの「パワーゲーム」の様相を呈してきた体操パワハラ問題。昨日、その戦況に大きな影響を与える出来事があった。
そもそもの発端である、速見佑斗コーチが「謝罪会見」を開いたのである。
内容については既に多くのメディアで報じられているのでここでは割愛するが、個人的に注目をしたのは以下のような速見氏の発言だ。
「指導9年目になるんですが、最初の方は危険が及ぶ場面で、たたいてでも教えることが必要だと思っていた。ここ数年は良くないって分かっていながらも、我慢できずたたいていたのが数回あった」
頭では暴力が良くないとわかっていながらも、感情が高ぶると反射的に手が出てしまう。麻薬中毒患者さながら、暴力衝動を前に理性が吹き飛んでしまったとおっしゃっているのだ。
なんてことを言うと、速見氏を批判しているように聞こえるかもしれないが、そういう意図はない。会見で見る限り真摯に反省をしているようだし、まだ未来のある方なので、カウンセリングなどで暴力衝動を抑えるようになって、ぜひまた体操界に貢献していただきたいと心から願う。
では、なぜ彼の言葉をわざわざ取り上げさせていただいたのかというと、ここに今回の騒動の本質を見ることができるからだ。