店の前を素通りする観光客 Photo by Konatsu Himeda

 同行してくれた中国人の友人に「せっかく来たのに、どうして何も買わないの?」と尋ねると、「どの土産物も、上海でも買えるから」と答える。ましてや、ネット販売を使えば、リアル店舗で買うよりもずっと安く手に入ってしまう。これでは観光収入などあったものではないだろう。

 むしろ悲しむべきは、コストを理由に“愚直なこだわり精神”が瞬時に淘汰されてしまうことだ。それが今の中国市場の無常ぶりである。これだけの数の店舗が居並びながら、店主のこだわりや店づくりにかける情熱を醸し出す店舗は皆無だった。

 店先では暇を持て余す従業員がスマホをしきりにいじっている姿ばかりが目に付いた。

スマホで時間をつぶす従業員 Photo by Konatsu Himeda

 2017年夏、この杭州市にアリババの無人店舗第1号ができた。人件費や店舗賃料、その他の出店コストを考えれば、リアル店舗の経営など割に合わないのだろう。今後は「無人店舗」が主流になるのだとしたら、店頭の販売員たちも、いずれ消えていく運命にあるのかもしれない。

 1999年にマー氏が杭州市で起業した3年後の2002年に、筆者はこの地でマー氏本人を訪問し、取材したことがある。その当時は、まさかこんな流通革命を起こす大人物になろうとは想像すらできなかった。

 その後アリババは「淘宝網(タオバオ)」で中国全土に消費革命をもたらし、また「支付宝(アリペイ)」による決済革命で、今や銀行をも不要にしてしまった。そして現在、取り組んでいる「キャッシュレス都市」の構築で、中国に現金不要の社会を到来させようとしている。「未来の製造業はメード・イン・インターネットだ」とマー氏が叫ぶ製造革命は、国境をも不要にしてしまうに違いない。

 中国では、私たちの想像を超えるスピードで“新旧交代”が進んでいる。その狭間で生まれるのが「熾烈な企業間競争」だが、新興市場はたいてい巨頭2社が圧倒的シェアを握る傾向にある。「最後にのみ込むのはアリババか」――そんな臆測も飛び交う。

 政治を共産党が掌握するのに対し、市場経済はアリババが握る――。「一党独裁」、「市場独占」とそれらは中国的特色の強い支配形態だが、そこにどんな盲点が潜んでいるのか。“ファーウェイ報道”もさることながら、“アリババ帝国”がどこまで版図を広げるのか、その行く末が気になる。

(ジャーナリスト 姫田小夏)