帰宅した友人は、焦って動物病院や愛護相談センター、近所など考えつく限りを訪ねたり、貼り紙をしたりして猫を探し回った。
 必至の努力が実り、よく似た猫が夕方になるとある家の庭に現れるという情報をつかんだ。
 家人が友人から教えられた猫の名前を呼ぶと、「ニャン」と返事をしたので間違いない、という。

 しかし、その家は友人の家から優に2キロは離れている。
 雄猫の行動範囲は最長500メートルと何かで読んだことがある。
 ガセネタかもしれない……。
 しかし友人は、いてもたってもいられず現場に赴き、家人の了解を得て、今か今かと夜まで待った。
「いつもは現れるんですけどねえ。明日また来てください」
 そう申し訳なさそうに言う家人。
 翌日も日中からお邪魔して夕方を待った。

 ……来た。

 何年ぶりの再会のような懐かしさに、感極まって猫に声をかける友人。
 ところが、抱き上げようと近づくと、なんと猫はさっと後ろを向いて走り去ってしまったのだ。

 忘れてしまったのだろうか。
 それとも、怒っているのだろうか。

 友人の落胆は計り知れなかった。
「きっとまた来ますよ」
 そんな慰めの言葉を背に、とぼとぼと一人で帰宅する両足は鉛のように重かったそうだ。
 だが……。