自宅の前まで戻ってきて、友人は自分の目を疑った。

 猫が玄関の前で待っている!

 三つ指をつくかのように前足をそろえ、頭を上げてじっとこちらを見つめているではないか。

 後日、この話を動物病院ですると、獣医師先生はこんなことを言った。

「メインで世話をしてくれている人がいなくなったので、探しに行ったんでしょうかね。
 ボスだった猫にとっては、2キロ先のお宅も数あるエサ場の1つに過ぎなかったんですよ。
 そこであなたに会って、
『なんだ、もう帰っていたのか』
 と戻ってきたのではないでしょうか」

吉田裕美(よしだ・ゆみ)
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育国語科卒。在学中に文部省給費にてパリINALCO(国立東洋言語文化研究所)留学。リサンス(大学卒業資格)取得。日仏両国で日本語を教える傍ら翻訳、通訳に携わる。地域猫ボランティア活動に関わり、これまで多数の猫を預かり里親へ橋渡ししてきた。現在、2匹の愛猫とともに暮らしている。