世界で著書累計100万部の猫を愛する専門家が、猫から日々教えられている生きる知恵を綴った『猫はあきらめ時を知っている』の日本語版が刊行された。
お気に入りの隠れ家を持ち、高価な物より段ボール箱を愛し、美味しくない食事は遠慮なく残し、どうやらこっそり人間をしつけているらしい……そんな猫が、常に周りの目を気にして生きる人間たちに、もっとラクに生きるコツを伝える一冊から一部抜粋して紹介しつつ、無類の愛猫家の翻訳者・吉田裕美氏が猫への思いを綴る。
猫にありがちな日常の仕草には、どんな偉人の名言にも勝る、深い人生哲学が込められている!(以下、執筆/吉田裕美)

今を生きよう

猫は、
明日がどうなるかを心配したり、
過去を悔いることはない。
今、この瞬間を生きている。

起きてしまったことや
将来への不安を気にせず、
今この瞬間に意識を向けよう。

(セリア・ハドン著 平田光美訳『猫はあきらめ時を知っている』より)

 今日は打ち合わせが入っている。あわよくば次の仕事につながるかもしれないと朝の支度も念入りだ。

 シャワーを浴びたら鏡に向かってリップをつけたら、確か奥のほうにかけてあるはずの勝負の白シャツを取りに、クローゼットへ。狭いスペースはギュウギュウと押し込まれた服でいっぱいだ。

 すると、それまで一体どこにいたのか、クローゼットの扉を開けるのと同時に、猫が中へ飛び込もうとする。
 そんな猫を追い払って、一通り探してみるが、お目当てのシャツはない。
 棚の上の箱にしまい込んだのかも。
 箱を降ろしてフタを開けると、一番上にあった大事なシルクのワンピースの上に猫が飛び乗る。思わず出た悲鳴にひるむ猫に「驚かせてゴメン」と、ひと撫で。
 もう一度クローゼットを探すが、やはり見当たらず。

 すでに朝の貴重な時間を30分近く費やしているのだから、気持ちにも余裕がなくなってくる。
 さんざん探し回って、泥棒か家宅捜査でも入ったように散らかってしまったが、あと5分で家を出なければ完全に遅刻だからと、あえて目をつぶる。

 結局とりたてて何もない平凡な一日を終えて帰宅する。