「それにしても、日本政府はジョン・ハンターに興味はないのか。世界有数の巨大ファンドのCEOが精鋭の部下を20人も引き連れて、もう2週間も日本に滞在してるんだぞ。それも東京のホテルを動こうとしない。中の10人は一度も部屋を出てないらしい。観光じゃないことは誰が見ても分かる」

「日本政府だって、打てる手があれば打っている。日本発の世界恐慌なんて、考えるだけでぞっとする」

「だったら合法、非合法を含めて、あらゆる手段を使って彼らが東京に滞在している理由を調べ上げるべきだ。アメリカへの問い合わせ、ホテル従業員への聞き込み、彼らが部屋に何を持ち込み、何をやっているのか。場合によっては、部屋に盗聴器と隠しカメラを設置しろ。彼らが連絡を取っているすべての金融機関、証券会社、個人投資家への接触とデータ収集。調べる手段はいくらでもある」

 森嶋は、次々にロバートの口から飛び出す言葉を違う世界のもののように聞いていた。いや、確かに異なる国の話なのだ。日本で出来ることは、その内のいくつもない。

 しかし森嶋の口から出たのは、自分でも情けない言葉だった。

「現在、日本はそれどころじゃない。分かるはずだ」

「いや、分からないね。お前ら政府は、何も分かってない。本物の危機がどういうものか。そして、それが迫っていることも」

 低いが思いもかけない強い口調で言ってから、突然ロバートは我に帰ったような顔で森嶋を見つめた。

「悪いことを言った。俺も東部育ちで地震の本当の怖さを知らないんだ」

「気にしなくてもいい。憎むべきは地震であり、ヘッジファンドだ」

「だが、あの地震が日本を救ったんだ」

「どう言うことだ」

 森嶋は視線をフロントからロバートに戻した。