別にのんびりしていたわけじゃない、と言いかけた言葉を呑み込んだ。あのときは、知識も情報もなかった。最悪だったのは、政府に対応能力が著しく欠けていたことだ。いたずらに会議を繰り返し、右往左往するだけだった。外国人から見れば、たしかにのんびりしている風に見えたのだろう。

 「首都機能が元に戻るのはいつだ。俺が聞いてるのは、単にインフラや交通網の回復だけじゃない。政府機能、役所、金融を含めたすべての正常化はいつになるかという話だ」

「役所の機能は今日の午後には正常に戻ると聞いている。しかし完全とは程遠い状況だろう」

 森嶋は庁舎内を思い浮かべた。あれを元通りに片付けるには、さらに数日かかるだろう。都内の役所の窓口は開くとしても、こなせる業務量は通常の3分の1以下になる。

「金融機関の窓口が正常に戻るのは明日以降になる。しかしカードは使えるし、銀行のATMはすでに開いているから、そっちを利用すればいい」

 ATMに長蛇の列が出来ているとは聞いていない。金融機関の窓口の正常化が遅れるのは、システムチェックに人員が割かれているのと、やはりオフィス内の混乱が原因だ。

 コンビニ等で不足していた品物は、既に補充が出来ている。都民は冷静に行動しているのだ。

「証券取引所が開くのは?」

「大阪、名古屋は普通通りだが、東京は知らない。彼らが動き出したのか」

「いずれ動くさ。地震で都内の半分以上の外国人が東京を逃げ出したと言うのに、20人あまりのスタッフ全員がホテルにこもっているんだからな。寝てるわけでもないだろう」

 ロバートは、フロントに目を向けたまま言った。

 ハンターとロッジはフロント前で、笑いながら話している。