上京したクリーニング会社の社長が、全国紙の新聞記者と労働組合の職員の前で、賃金支払いなどに不当な部分があったと非を認め、改善を約束した。ところが、中国の派遣会社社長が、「たとえ日本で賠償金を払ったとしても、湖北に戻ったら彼女たちに全部吐き出させる。湖北省では誰がえらいか、あいつらの家族に分からせてやる」と彼女たちとその家族を脅迫。こうして態度を見て、クリーニング会社の社長も態度を180度転換し、派遣元に同調してしまった。

外国人労働者と共存図るため
社会的、法的なインフラ構築は待ったなし

 山梨県で繰り広げられたこの「中国人女工哀史」事件は、私が書いた記事がきっかけで、米国からヨーロッパ、東南アジアなどで広く報道された。湖北省政府は、事件の早期解決を図るために、労働・社会保障庁の庁長、副庁長、黄石市副市長ら主管部署の責任者からなる調査団を日本へ送り、調査に乗り出した。

 これは、中国人技能実習生の権利を維持するために、中国側が政府責任者を海外に派遣する先例となった。中国外交部スポークスマンが、「日本側が、中国国民の合法的な権益を守るよう望む」といったコメントを数度も出したばかりでなく、日本の法務省や厚労省も問題解決のために動いた。

 事件は、最終的にクリーニング会社の賠償金支払いと、派遣元の労働者派遣資格の剥奪・業務禁止といった形で終息したが、外国人労働者の受け入れに対する日本企業の法意識の欠如といった多くの問題があぶりだされ、解決すべき課題としていまでも積み残されている。

 10年前の08年9月2日、メディアの取材に対して私は、「日本には大正時代の紡績工場で働く女工たちの悲惨な境遇を描いた『女工哀史』という名作がある。現在、世界第2位を誇る経済大国となった日本で、いまなお女工哀史が続いていることに強い憤りを感じる」と述べた。

 外国人労働者を受け入れる時代がきた今、これまで見てきたような多くの問題について解決する必要がある。受け入れ企業に対する順法意識の徹底と、監督などの措置もしっかりと講じるべきだとも思う。

 外国人労働者との共存社会を築くために、社会的、そして法的なインフラの構築は待ったなしの状態にあるといえる。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)