多くのビジネスパーソンや有名経営者がハマる「登山」。無酸素で世界中の高山に上ってきたのに致命的なケガはなし、という驚異的な記録を誇る登山家・小西浩文氏の講演やコーチングにはビジネスパーソンが殺到するという。その理由は、ズバリ「危機管理」。そう、命の危険にさらされながら頂上を目指す登山は、危機管理のまたとない教材なのだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

楽天ではリーダー研修で「登山」!
山にハマるビジネスパーソンは多い

登山家は危機管理のプロでもある。単に「山が好き」というだけでなく、危険と隣り合わせだからこそ、生きた危機管理が学べる――そんな思いが、経営者やビジネスパーソンを登山に引きつけるようだ 写真:内田良平/アフロ

 仕事の関係で、経営者やマネジメント層の方たちとお会いさせていただく機会が多いのだが、そこでかねてから不思議に感じていることがある。

 それは、「登山」にハマっている方が異様に多いことだ。

 もちろん、マラソンやトライアスロンみたいなものの方がメジャーであることは言うまでもない。ただ、「山」に魅せられている方もかなりいて、今度の休暇ではどこそこの山に挑戦しますという本格的な方から、週末のハイキング的な方まで含めると、“山好き率”はかなり高い印象なのだ。

 事実、誰もが知る有名企業経営者の中にも、「登山」にどハマりしていることを公表している方がいる。

 例えば、楽天では年に1回、国内外のグループ企業CEOなど執行役員らが集う「リーダーシップサミット」を開いているが、そこでも目玉イベントは「登山」だと言う。今年9月には、三木谷浩史社長を筆頭に幹部たち約120人が、標高1977メートルの谷川岳に登った。ニュースでよく耳にするように谷川岳は遭難事故が多い。社内運動会のようなノリで登るレベルの山ではないのだ。

 “ガチ登山”で思い浮かぶのは、USEN-NEXTHOLDINGSの宇野康秀社長だ。もともとトライアスロンをしていたが、2013年にヨーロッパアルプス最高峰のモンブランに登頂すると、アフリカ大陸の最高峰キリマンジャロも制覇している。

 では、なぜビジネスパーソンたちは、自らをこんなに追い込んでまで「山」を目指すのだろうか。

 よく言われるのが、「チームで力を合わせて頂上を目指す」という行為が、会社経営に通じるからという理由だ。確かに、三木谷社長も「あえて大変な山に臨む。大変なことを全員でやりきるのはビジネスにも通じる」(Forbes JAPAN 2018年9月30日)と述べており、登山をチームビルディングに活用しようという企業や経営者が多いことがうかがえる。

 これに関しては全く異論はないのだが、個人的には、山というのが「危機管理」というスキルを身につけられる格好の場である、ことも無関係ではないと考えている。