20世紀は、大手企業や政府などが権力を持つ「オールドパワー」の時代だったが、テクノロジーの発展の結果、いまや大組織がパワーを溜めこむことは不可能となった。21世紀は、個人でも際限なく大きな権力や影響力を持てる「ニューパワー」の時代だ。
世界に起こっているそうしたパワーの変化とその影響を鮮やかに読み解き、米ニューヨーク・タイムズ紙、英フィナンシャル・タイムズ紙など各国メディアで絶賛されている書籍が『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』だ。日本でも発売早々、ビジネス書書評メルマガ「ビジネスブックマラソン」(vol.5170)にて「今年最高の一冊」、いまの世界の変化に対応するための「救世主」と評されるなど、大きな話題となっている。
著者は、ハーバード大、マッキンゼー、オックスフォード大などを経て、現在はニューヨークから世界中に21世紀型ムーブメントを展開しているジェレミー・ハイマンズと、約100か国を巻き込み、1億ドル以上の資金収集に成功したムーブメントの仕掛け人であり、スタンフォード大でも活躍するヘンリー・ティムズ。
本書ではこれからの時代におけるパワーのつかみ方、権力や影響力の生み方、使い方について、まったく新しい考え方を紹介している。本記事では、その刊行を記念して一部を特別公開したい。
「型破りな教皇」が最初にしたこと
こんにちのリーダーは、自分の組織のリーダーとしてだけでなく、一般の多くの群衆のリーダーとしても成功しなければならない。だが本書でこれまで見てきたように、群衆を率いていくのは並大抵のことではなく、特定のスキルが求められる。
これについては、意外なニューパワー・リーダー、ローマ教皇フランシスコから、多くを学ぶことができる。
ローマ教皇フランシスコが最初に行ったことは、祈ることだった。それどころか、教皇に選出された瞬間から、彼は祈っていた――"大いなる心の平安"に満たされながら。以来、教皇はその感覚を持ち続けているという。
だが、次に行った3つのことは、それぞれ特筆に値する。まず、新教皇が着用するのが慣例の、毛皮の襟のついた深紅の法衣を送り返し、簡素な白い法衣を着ることにした。報道によれば、ヴァチカンの式典進行役に対し、教皇はこう言った。「君が着るといい。お祭りは終わりだ!」
さらに枢機卿(注:教皇の最高顧問)とあいさつを交わす際には、儀典を破り、最高位の座に着席するのを拒否した。
最後に、サン・ピエトロ大聖堂のバルコニーで群衆の前に姿を現したとき、教皇は枢機卿の祝福を求めず、カトリック教会の繁栄も祈らなかった。伝統に則って、教皇の初めての祝福を人びとに与えようともしなかった。そのかわり、教皇は人びとに祈ってください、と頼んだ。「神がみなさんをとおして、私を祝福してくださるように」
ローマ教皇ほど、象徴的に多くを意味する立場はほかにない。フランシスコは教皇になって最初の数時間で、強烈に響き渡るシグナルを発信した――自分が権力についてどのように考えているかを、「やらないこと」と「やること」で示したのだ。豪華絢爛な法衣は要らない。枢機卿たちより高い位置にも座らない。
日が暮れると、教皇用のリムジンには乗らずに、枢機卿たちと一緒にミニバスに乗って夕食に出かけた。夜は、宮殿内の教皇用公邸を利用せず、市内の簡素な宿泊施設に泊まった(結局、そのままその施設に居住することにした)。