20世紀は、大手企業や政府などが権力を持つ「オールドパワー」の時代だったが、テクノロジーの発展の結果、いまや大組織がパワーを溜めこむことは不可能となった。21世紀は、個人でも際限なく大きな権力や影響力を持てる「ニューパワー」の時代だ。
世界に起こっているそうしたパワーの変化とその影響を鮮やかに読み解き、米ニューヨーク・タイムズ紙、英フィナンシャル・タイムズ紙など各国メディアで絶賛されている書籍が『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』だ。日本でも発売早々、ビジネス書書評メルマガ「ビジネスブックマラソン」(vol.5170)にて「今年最高の一冊」、いまの世界の変化に対応するための「救世主」と評されるなど、大きな話題となっている。
著者は、ハーバード大、マッキンゼー、オックスフォード大などを経て、現在はニューヨークから世界中に21世紀型ムーブメントを展開しているジェレミー・ハイマンズと、約100ヵ国を巻き込み、1億ドル以上の資金収集に成功したムーブメントの仕掛け人であり、スタンフォード大でも活躍するヘンリー・ティムズ。
本書ではこれからの時代におけるパワーのつかみ方、権力や影響力の生み方、使い方について、まったく新しい考え方を紹介している。本記事では、その刊行を記念して一部を特別公開したい。

ただ「上」から投下しても広がらない

 ただ上からメッセージを投下すればよかった時代は、とにかく記憶しやすい広告をつくることが重要だった。ベストセラー『アイデアのちから』(日経BP社)において、兄弟である共著者チップ・ハースとダン・ハースは、「焼きつく」という概念、つまり、なにがアイデアを記憶に焼きつかせるのかを説明している。

 ジョン・F・ケネディ大統領が「人類を月に到達させる」と宣言したスピーチや、旅行者が目を覚ましたら肝臓を抜き取られていたという都市伝説や、サブウェイのサンドイッチを食べ続けたら体重が半減したという人物が登場するコマーシャルなど、多くの例が紹介されている。

 これらの例に共通する特徴として、著者が挙げているのは次の6つだ。

・Simple(シンプル)――単純明快さが決め手。
・Unexpected(意外性)――驚きを与え、もっと知りたいと思わせる。
・Concrete(具体性)――人びとがはっきりと思い描ける。
・Credible(信頼性)――統計や専門家による推薦を用いる。
・Emotional(感性)――人間の本能に訴える。
・Stories(ストーリー)――既存の問題に変化が生じる可能性や道筋をイメージさせる。

 これが「SUCCESsの法則」だ。最後の「s」はなにも表してはいないが、一文字足りない「SUCCES」では記憶に焼きつかないということだろう。

 これはアイデアがどのように人の心をつかみ、共感を呼ぶかを理解したい人には有益な本だ。この6つは、注目を浴びるアイデアを打ち出すための不朽の原則と言える。

 だがニューパワーの台頭によって、新しい原則が必要になってきている(注:「ニューパワー」とは、いま、世の中に台頭している新たな権力や影響力のこと。詳しくは本書を参照)。

 アイデアを記憶に焼きつかせる方法はわかったが、これだけ情報が氾濫し、人びとが積極的に「参加」する時代に、我々はどうしたらアイデアを「拡散」することができるだろう?

 人びとはもはやアイデアを消費するだけでは飽き足らず、アイデアを発展させ、手を加え、無数の人びとに届けるために、自分も役割を果たしたいと思っている。そんな21世紀に成功するアイデアの勝因はなんだろう?

「拡散」されるアイデアの3大鉄則

 ハース兄弟に敬意を示しつつ、いまもっとも成功しているアイデアやコミュニケーション戦略の多くは、SUCCESsに「ACE」を加えたものだと僕たちは考えている。

 ACEとは、ニューパワーの世界でアイデアを拡散するために重要な3つの原則だ。

その1:Actionable(「行動」をうながす)
そのアイデアは行動をうながす。ただ憧れたり、記憶したり、消費したりする以上の行動を起こすきっかけを人に与える。その「行動」はシェアにはじまり、さらにさまざまな形に発展していくことも多い。

その2:Connected(「つながり」を生む)
そのアイデアは、大切な人たちや価値観を共有する人たちの仲間同士のつながりを促進する。アイデアの共有によって、周りの人を身近に感じ、自分は志を同じくする仲間の一員だと感じることができる。そこから、アイデアをさらに拡散させるネットワーク効果が生まれる。

その3:Extensible(「拡張性」がある)
そのアイデアは、各参加者によって容易にカスタマイズやリミックスやシェアができる。共通のベースから、各コミュニティがアイデアをアレンジし、発展させられる構造になっている。

 たとえばアイス・バケツ・チャレンジは、まさにこの3つの特徴が表れていた。

 まず、いくつかの点で明らかに「行動」をうながした

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)協会への寄付もそのひとつだが、それはもっとも主要なアクションでも成果でもなく、参加者数は寄付者の数をはるかに上回っていた(そこはさかんに批判された点でもある)。アイス・バケツ・チャレンジは参加者に、動画を撮ってシェアすることを求めた。さらに友人たちを指名して参加させるよう求めた。そして、ほかの人たちのSNSの投稿に「いいね!」や、シェアや、コメントをするよう求めた。

 また、少なくとも3つのレベルで「つながり」を生んだ

 おそらくこれがもっとも重要なことだが、第1に、このチャレンジは、動画のシェアや指名によって、個人と仲間集団とを結びつけた。このチャレンジは、一般人だけでなく著名人にまで「広める許可」を与えた。アイス・バケツ・チャレンジは、ビル・ゲイツのような堅物の有力者たちから親しみやすい一面を引き出すには、うってつけの方法だった。若手ユーチューバーたちは、ビキニ姿やかっこいい水着姿を見せつけることができた。

 第2に、一般の人と有名人が同じように参加してつながることで、レディ・ガガからバスケットボール選手のレブロン・ジェームズまでと理念を共有し、瞬間を分かち合うことができた。

 第3に、参加者は、ALS支援のために集結した新しい世界的な行動集団の一員となった。チャレンジは、自分より大きな目的のために貢献するよう参加者に求めた。慈善活動的な大義名分が伴奏となり、参加者は、友人たちをバックバンドに、SNSを通じて見ている人たちをオーディエンスにして、ロックスターになることができた。

 そして、アイス・バケツ・チャレンジはどれもユニークで、動画はそれぞれの好みでカスタマイズされていたという点で、「拡張性」があった

 従来の単純な広告投下の世界とは大違いで、自分の好みに合わせてひと工夫できるため、ただ参加するのでなく、誰もがプロデューサー気分を味わえた。インドのハイデラバード出身のジャーナリスト、マンジュ・ラタ・カラニディは、このチャレンジをライス・バケツ・チャレンジに変えた。

『スタートレック』の俳優パトリック・スチュワートは、黙って優雅に小切手にサインし、氷水の入ったバケツから、氷をふたつトングでつまんでタンブラーに入れ、シングルモルト・ウィスキーを注ぐと、ゆったりとそれを味わった。

 アイス・バケツ・チャレンジは、絶妙な感情のカクテルだった。共同の活動に貢献しているという連帯感を味わえるとともに、動画には制作者の主体性を取り入れることで、自分たちならではの持ち味を表現することができた。

 近年、成功している取り組みの多くには、これら「ACE」の3つの特徴が見られる。

 スタートアップやベンチャー企業や広告キャンペーンはもちろん、(本書でのちに出てくるように)テロリズムすら例外ではない。

(本原稿は『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』からの抜粋です)