問題は、それらの疑惑の舞台の多くが海外だったことだ。

 海外には日本の司法権は及ばず、検察も簡単に手を出せない。裏付け証拠の収集は簡単ではなかった。

 ゴーン氏を告発した日産幹部らは、特捜部が、悪性の印象を持たれやすい「会社私物化」を特別背任容疑などで摘発することを望んでいたとされるが、結局、国内捜査で完結する、立証しやすい有価証券虚偽記載の立件を優先することになった。

 特捜部が最初にゴーン氏にかけた容疑は、ゴーン氏が、2010~14年度の5年分の報酬が実際は計約100億円だったのに、報告書に半分の計約50億円と、うその記載をし、約50億円を隠したとする容疑だった。

 有価証券報告書は、投資家の判断の元となる企業の各年の財務状況や役員情報を記載したもので、うそを書くことは許されない。

 役員報酬の個別開示は、08年のリーマンショックの後、投資家や株主への情報開示が強化される一環で導入され、09年度の決算から1億円以上の役員報酬の開示が義務づけられた。

 有価証券報告書の虚偽記載は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金。特別背任など「実質犯」と罪の重さは同じだ。有罪になれば、実刑判決が言い渡されてもおかしくない。

 検察にとっても、報酬の虚偽記載に目を光らせるのは、証券市場の要請にかなったものであり、従来の財務諸表の粉飾でなく、役員報酬の開示義務違反を初めて摘発した意義もあった。

仏政府、水面下で「注文」
検察・日産は「圧力」と反発

 だが、「カリスマ経営者逮捕」の衝撃は、予想以上のものだった。

 11月19日、特捜部が来日したゴーン氏と共犯の日産代表取締役のグレッグ・ケリー氏(12月25日、海外渡航禁止などの条件付きで保釈)の2人を逮捕すると、世界中が驚愕した。

 ただ、役員報酬の虚偽記載がいかに市場に実害をもたらしているかの説明は難しかった。検察OB弁護士らの「形式犯」批判が起きた一方で、ゴーン氏の勾留が長くなるとともに、海外メディアなどからは、長期勾留、弁護士立ち会いなしの取り調べなど、捜査手続きに対する批判が起きた。

 日産とルノーの提携関係の見直しをめぐるせめぎ合いも、激しさを増すことになる。ルノーのバックにいた仏政府の動きも目立ち始めた。