Aチーム未経験の澤田を起用
「3代目ロングスローブラザーズ」に

 絆をより強めた飯田と檀崎を中心に、チームが変貌を遂げようとしていた矢先に、黒田監督はシステムとメンバーの変更を決断する。選手権へ向けて青森を発つ直前になって、右ひざのけがもあり、卒業を直前に控えても一度もAチームでプレーしたことのない澤田貴史を呼び止めた。

「お前を守備的なポジションで使うことにした」

 青天の霹靂にも近い驚きを覚えたと、後に澤田は振り返っている。無理もない。ボランチとサイドバックを務めてきたが、実戦では後者でプレーした方が大半を占めていた。しかし、身長173cm、体重70kgと先発メンバーの中では最も小さい澤田の体には、脅威の飛び道具が搭載されていた。

 それはロングスロー。左右のタッチラインから相手ゴール前まで距離を出せる澤田のスローインは、手を使える分だけフリーキックやコーナーキックよりもコントロールがつき、なおかつオフサイドにならない点で、リスタートにおいて青森山田の武器に、そして相手の脅威になる。

 一発勝負のトーナメント戦においては特にリスタートが重要になることを、全国選手権には出場するもののなかなか上位に勝ち進めず、先輩監督たちから悔しさを味わわされる度に黒田監督は学んできた。

「特に亡くなられた鹿児島実業の松澤隆司先生からはリスタートの重要性と、最後はリスタートが明暗を分けることを勉強させられました。市立船橋もリスタートが非常に強かった。選手権ではリスタートが非常に大事になると、選手たちにも常々言ってきたので」

 青森山田のロングスローと言えば、3年前の第94回大会で衝撃的なスローを連発したDF原山海里(現東京学芸大学)が真っ先に思い浮かぶ。MF郷家友太(現ヴィッセル神戸)を経て、お家芸のバトンを受け取った澤田は「自分は3代目ロングスローブラザーズですね」と屈託なく笑う。

「1年生の夏、国体の事前合宿でたまたま投げてみたら、ニアポストくらいまで飛んだんです。自分は特徴のある選手ではないし、何かひとつ武器を作りたいと思っていたので、それから原山さんや郷家さんの動画を何度も見て、助走とか投げた後の手の動きなどを勉強しました」