けれど、わずか1年足らずで大坂なおみ選手は見違える成長を遂げた。つい先月の全豪オープンを戦う大坂なおみ選手を思い起こしてほしい。女王の風格さえ漂わせ、厳しい場面でも自分自身で動揺を落ち着かせ、ラケットを叩きつけたい気持ちも懸命に抑えて劣勢を跳ねのけた。多くのファンは、大坂なおみ選手が子どもから大人に成長した姿に感嘆したのではないだろうか。

 契約の詳細まではわからないが、2017年12月に契約を交わしたとき、バインコーチの最大のミッションは、「世界ランキング1位の達成」ではなく、「眠れる才能を触発し、大坂なおみを上昇気流に乗せること」ではなかっただろうか。あくまで想像だが、その時点で両者が“大きな目標”として共有できたのはたとえば「世界ランキング10位以内」といった到達点ではなかっただろうか。

 大坂選手のポテンシャルは誰もが認めていたが、精神的な課題や技術的な不足もまた多くの人が指摘していた。あの時点では、「世界10位」さえ公言するのはまだ勇気が必要だっただろう。その課題を共に乗り越える適任者として、バインコーチが選ばれた。そして見事に、いやあまりに鮮やかにそれをやってのけた。彼は新しく創設されたWTAの『年間最優秀コーチ』の最初の受賞者にもなった。

 しかし、成長した大坂なおみ選手に、いま必要なコーチは誰か? バインコーチは、育成的なコーチングには素晴らしく長けているが、世界1位になった彼女に相応しいコーチだろうか?

“大人”になった大坂選手にとって
この別れは「前向き」なものだ

 全米オープン・チャンピオンになり、全豪オープンでも当然のように優勝を期待されて臨む大坂なおみ選手は、これまでとまったく違う責任感とプレッシャーを感じたに違いない。スポンサーからは10億円を超える契約が提示され、優勝すれば3億円を超える賞金が得られる。それが「夢」ではなく「現実」となった。しかも、むしろ「責任」にさえなった。

 そうした状況やプレッシャーが大坂なおみ選手を“大人”にしたのかもしれない。大人にならざるをえない。何しろ、年間30億円を超えるとも言われるビッグビジネスの渦中に飛び込んだのだ。そういう戦いに歩みだすとき、隣にいるのがバインコーチであることに違和感を覚えた可能性はある。