例えば、個人が小売店でスマートフォンを使って支払いを行った瞬間に、どこで、何を買っていくら使い、近くには誰がいるかといった情報を提供することになる。こうしたデータが時系列で集められ、無数の他人のデータと一緒に解析されると、個人の嗜好や趣味、経済力、人間関係、広告への反応など、マーケティング上有効な情報を多数取り出すことが技術的に実現可能なはずだし、データの解析と利用の技術はまだまだ急速に進歩するだろう(やるべきことは分かっているのだし、儲かるのだから!)。

 キャッシュレス決済の情報を使って信用判断を行い、ローンビジネスを展開するアリババなどの中国企業の例が有名だが、古来、個人向けの金貸しは儲かるビジネスであり、こうしたビジネスで一気に優位に立てる魅力は大きい。

 もちろん、決済データは自社グループの商品の販売促進に役立つだろうし、ターゲットを絞った広告のためのデータとして外部に利用させる手もあるし、倫理的な問題はあるとしても個人データそのものを“売り物”にすることが可能だ。

個人は「欲望工学」に対抗できるか

 現在、既にスマートフォンやパソコンを通じて送られてくる「レコメンド」や、ターゲットを絞ってやってくる広告などを通じて購買行動に至っている人が多数いる、というよりもそうした働きかけに影響されていない人の方がまれになっている。

 筆者自身も、自動的に差し向けられた広告に反応して買った品物を身の周りにいくつも挙げることができる(全く自慢にならない話で情けないが、事実だ)。

 今後、キャッシュレス決済が普及して、リアルの場の個人の行動が把握されるようになると、個人の欲望は今までとは桁違いの精度で把握されるだろうし、把握されるだけではなく作り出されるようにもなっていくだろう。

「情報欲望学」あるいは「欲望工学」とでも呼ぶべき技術は、これから飛躍的な進歩を遂げるはずだ。